君はあの日、現実に倒れた彼女の姿を目の当たりにして気が付いたんだね。彼女を嫉み、そしてさげすむのは、自分の脆弱な本心に向き合う事から逃げていたんだと。そして君はもう一つ気付いたんだ。彼女の存在が、君自身にとっても無くてはならない大切なものになっていたんだという事に。
君は彼女を失いたくないと心から願った。生きてほしいと心から願ったんだ。だからあの日、彼女が息を吹き返した時に君が俺に見せた嬉し涙は温かかったんだよ。
そして君が望んだ通り、彼女は今も無事に生きている。なんて素晴らしい奇跡なんだろうか。
俺は未使用のタオルを君に渡した。もちろん涙を拭いてもらう為に。君はそれを快く受け取ると、もう流れ尽くした涙を拭いた。
ただ君は少し恥ずかしそうにしながら下を向いたね。化粧が涙で流れた落ち、ほとんどスッピンになってしまった事に決まりの悪さでも感じたんだろう。
でも大丈夫、そんなの気にすることは無いよ。だって君は元々薄化粧だし、なにより素の状態でも十分可愛いんだから。
君が全てを話してくれたお返しに、俺もあの日何度も逃げ出したくなっていた不甲斐無い脆弱さを白状した。お互いの傷の舐め合いでもいい。それでも胸の内をさらけ出す事で互いの気分が晴れるのであれば、今はそれで十分だと俺は思ったんだ。
軽く一時間は経過しただろう。さすがに話し疲れた君は一つ大きく息を吐いた。でもその時の君の表情は、耐え難い重圧から解放されたかのように穏やかだったんだ。そして君は俺に言った。
「話し過ぎて喉乾いちゃったよ。それ、一口ちょうだい」
君は俺の手にしていたペットボトルをさっと奪い取ると、飲みかけのドリンクを口に含んだ。そしてもう一度、生き返ったかのように深く息を吐いたんだ。
その後の事はあまり良く覚えていない。あの日の事ではなく、他愛のない世間話しでもしたんだろう。でも割と自然に話が弾んだ事だけは覚えている。
それでも歪んだ本心を語り合った俺と君は、惹かれ始めた互いの心の疼きに嘘なんてつけやしなかった。
そしてそんな俺達二人の関係が急速に親密になるのはごく自然な流れであり、また理由も必要とはしなかったんだ。
でもそれが結果的に君を、そして俺自身をひどく傷付ける未来に繋がるなんて、その時の俺達には想像も出来なかったんだけどね――。
君は彼女を失いたくないと心から願った。生きてほしいと心から願ったんだ。だからあの日、彼女が息を吹き返した時に君が俺に見せた嬉し涙は温かかったんだよ。
そして君が望んだ通り、彼女は今も無事に生きている。なんて素晴らしい奇跡なんだろうか。
俺は未使用のタオルを君に渡した。もちろん涙を拭いてもらう為に。君はそれを快く受け取ると、もう流れ尽くした涙を拭いた。
ただ君は少し恥ずかしそうにしながら下を向いたね。化粧が涙で流れた落ち、ほとんどスッピンになってしまった事に決まりの悪さでも感じたんだろう。
でも大丈夫、そんなの気にすることは無いよ。だって君は元々薄化粧だし、なにより素の状態でも十分可愛いんだから。
君が全てを話してくれたお返しに、俺もあの日何度も逃げ出したくなっていた不甲斐無い脆弱さを白状した。お互いの傷の舐め合いでもいい。それでも胸の内をさらけ出す事で互いの気分が晴れるのであれば、今はそれで十分だと俺は思ったんだ。
軽く一時間は経過しただろう。さすがに話し疲れた君は一つ大きく息を吐いた。でもその時の君の表情は、耐え難い重圧から解放されたかのように穏やかだったんだ。そして君は俺に言った。
「話し過ぎて喉乾いちゃったよ。それ、一口ちょうだい」
君は俺の手にしていたペットボトルをさっと奪い取ると、飲みかけのドリンクを口に含んだ。そしてもう一度、生き返ったかのように深く息を吐いたんだ。
その後の事はあまり良く覚えていない。あの日の事ではなく、他愛のない世間話しでもしたんだろう。でも割と自然に話が弾んだ事だけは覚えている。
それでも歪んだ本心を語り合った俺と君は、惹かれ始めた互いの心の疼きに嘘なんてつけやしなかった。
そしてそんな俺達二人の関係が急速に親密になるのはごく自然な流れであり、また理由も必要とはしなかったんだ。
でもそれが結果的に君を、そして俺自身をひどく傷付ける未来に繋がるなんて、その時の俺達には想像も出来なかったんだけどね――。
