明日へ馳せる思い出のカケラ

 ゴールした先に見えるであろう俺の未来。
 それがどんなものになるのかは想像なんて出来やしない。
 でも一つだけ確信しているのは、そんなマラソンのゴールこそが、俺の人生を再出発させるスタートラインなんだて事なんだよね。
 過去を拭い去って生まれ変われる場所となるはずなんだよね。
 だってフルマラソンを走り抜くってのはさ、中途半端な覚悟なんかじゃとても成し遂げられやしないんだから。

 それこそ血のにじむトレーニングに身を費やす必要があるんだろう。
 泣き言なんか叫んでいられないほどに、時間を惜しんで走り続けなければいけないんだろう。
 ただそんなつらく厳しい訓練を積み上げた者だけが到達出来る場所。それこそがフルマラソンのゴールなんだよね。

 きっと軟弱者の俺の事だ。その厳しさに心が折れ、途中で逃げ出してしまうかも知れない。やっぱりダメだったと諦めてしまうかも知れない。
 でもね、そんな弱さに正面から向き合い、それに打ち勝ってこそ手に入れられるのが【未来】なんじゃないのかって、今の俺には思えて仕方ないんだ。
 だからこそ、俺にはそこを目指す価値があるんだって思えてしまうんだよね。

 もう鈍った体に言い訳なんてしていられない。
 俺は無理やりに自分自身を過酷な状況に追い詰め始めた。無我夢中で走り続けたんだ。――あの頃の様にね。

 君に応援される事で乗り切れた、あの暑い夏のトレーニング。その感覚が俺の中に甦ってくる。

 もっと早く。もっと強く。
 俺には出来たはずだと気持ちを懸命に駆り立てる。
 まだ十分に動かない体を補うため、せめて気持ちだけはと躍起になって心を奮起させていく。
 体を切り裂くほどの冷たい風に吹き付けられようとも、身を刺すほどの凍える雨に打たれようとも、それでも俺は足を前に踏み出し続けた。
 止まってしまう事を恐れるかの様に、俺は無理やり前を目指し続けて走ったんだ。

 もし君が今の俺の姿を見たらどう思うのだろうか。
 余計な事は考えないよう努めてはいるものの、ふいにそう思ってしまう時がある。それは決まっていつも、バイト中の暇な時間だった。

 あれから君は一度たりともコンビニに来てはいない。
 外見からは想像出来なかったけど、君は強情な性格だったからね。たとえどんなにその胸の内が穏やかでなかったとしても、俺が連絡をしなければ会いはしない。君はそういう強い人なんだよね。