だっていくら俺が学生時代に陸上競技をしていたからって、それは過去の出来事でしかないんだからね。
 もうあれから三年近くも真面に走っていないんだ。いや、それどころか運動らしい運動を根本的にしていないんだよね。
 さらに言えば、俺は今までに最長でもハーフの距離しか走った事がないんだよ。それがいきなりフルマラソンに参加するつもりなんだ。もしマラソン愛好家が今の俺を見たならば『ナメてんじゃねぇよ!』って怒るに違いないんだよね。

 でももう俺は決意してしまった。どんなにつらくても、絶対にゴールしてみせるって。
 その想いは絶対に曲げられやしない。もう誰も俺の決意を鈍らせることなんて出来やしないんだ。

 だってこのレースは俺にとって、今後の人生を決めるに等しいものなんだから。

 決してマラソンを侮っているわけではないし、まして軽視するつもりなんてない。いやむしろ俺はその厳しさを十分に承知しているつもりなんだ。
 紛いなりにも陸上経験者として、かつては長距離を走る苦しみを肌身で感じていたのだから。
 でもだからこそ、俺はそんなマラソンを自分の人生に置き換えて考えてしまったんだよね。

 生きるってのはつらい事ばかりだ。それこそ弱音を吐き捨てたり、他人を嫉んだり、そんな収まりの悪さを常に感じていかなければいけないんだからね。

 でもほんの僅かな幸せで前向きになれる。まして自分自身が努力した結果で掴み取ったものならば、それはさらに格別な至福にへと変貌することだろう。
 そして今の俺に必要なのは、まさしくその後者なんだよね。

 長い時間くすぶり続けた俺にとって、これから先の人生に希望を抱くのであれば、それは弛まない努力が不可欠なんだ。
 そしてその努力の積み重ねによって、明日を夢見る資格を手に入れられるんだよ。
 まさにその努力こそが今の俺に最も必要な意志であり、俺自身を満たし明日へと駆り立てていく生き甲斐となるものなんだろう。

 目前に迫った東京マラソン。俺はそれを目指すべき目標とした。そこに向かって努力する決意を固めたんだ。
 だからもう迷わない。振り返りもしない。真っ直ぐにゴールだけを目指して全力を尽くす。
 バカが付くほど単純な考え方かも知れないけどさ、今の俺にはそれだけで十分だったんだ。