もう君との関係は元には戻らない。もうあの頃胸に抱いていた俺の目的は何処にも存在しない。何もかもが手遅れだったと、過去を悔やんで嘆く事しか出来やしない。

 でもさ、俺は今もこうして生きているんだよね。それだけは覆せない現実なんだよね。
 だったらさ、俺にはまだ、生きる目的を持つ資格があるって事なんじゃないのかな。

 強がりなだけかも知れない。そう自分に折り合いを付けたかっただけなのかも知れない。
 それでも俺には生きる目的が、目指すべき目標が欲しかったんだ。
 ほんの些細なものでいい。とりあえずは自分が精一杯努力する事で掴めるだけの生きる目的が欲しかったんだよ。

「やってみるか……」

 少し離れたテーブルに置かれた東京マラソンのチケットを見つめながら俺はそうつぶやく。
 正直それまでの俺は、本気で東京マラソンに参加しようなんて思ってはいなかったんだ。だって俺が再び走り出したのは、暗闇から抜け出したいっていう気持ちが行動として表れただけなんだからね。

 けどやっぱりキャプテンだった彼は、俺の事を本当に良く分かってくれていたんだろう。
 今の俺に足りないものが何であるのか。彼にはそれが良く分かっていたんだ。だから彼は目先の目標として、俺にこのチケットを渡したんだよ。
 俺に生きる目的を見出すキッカケを与えたかった為にね。

 今更ながらに彼の気遣いが堪らなく嬉しくなる。
 またどうして御座なりな別れ方をしてしまったのかと後悔もした。

 でも彼の事だ。日本に戻ったならば、きっと俺に連絡をくれるだろう。
 だからその時は正直に感謝の言葉を伝えるんだ。そして報告しよう。俺が立ち直った証しとなるはずの、東京マラソンでの完走した結果をね。

 翌日からのジョギングはトレーニングにへと変化した。
 俺は目指すべきレースに照準を定め、厳しい特訓を開始したんだ。

 少しばかりの焦りの感情を抱きながら。

 東京マラソンの本番は3月上旬に開催される。
 率直な思いとして時間が足りない。俺はそう痛感せざるを得なかったんだ。