明日へ馳せる思い出のカケラ

 俺はふと思い返す。そう言えば、不思議にも悪夢は見なかったんだとね。

 昨夜偶然の再会を果たした君の面影に苛まれ、絶対にうなされるだろうと覚悟していた悪夢。
 しかしそれはまったく存在を露わにしなかった。
 いや、むしろ俺は温かい感覚を夢に見ていたんだ。

 俺は忘れていた。君が夢に出て来ていた事を。
 でもそこに居た君は俺の予想とかけ離れたものだったんだ。そう、夢に現れた君は優しく俺に語り掛け、そして柔和な温もりで包み込んでくれていたんだ。
 昔と変わらない穏やかな笑顔でね。

 ろくに話してもいない彼女の話しを鵜呑みにし、大好きだった君を信じる事が出来なかった。
 それは間違いなく俺が過ちを犯したからに他なく、また俺の心が脆弱過ぎたからなんだろう。
 そしてさらに付け加えるとするならば、俺と君が別れたのは彼の依頼が原因でもないんだ。

 だってたぶんあの日に彼女の病室に赴かなかったとしても、彼女との間違いがなかったとしても、同輩達との遊びに夢中になっていた俺は君を御座なりにしていたはずだし、そう遅くないうちに君との関係は終わりを迎えていたはずなんだからね。
 それほどまでに俺は身勝手で救いようの無いバカだったんだよ。

 それでも君は俺に想いを寄せていてくれた。こんな俺に嫌われたくない。君はそう思っていたから、だから何も言わずに堪え続けていたんだ。
 そう、あの日言ってくれたように、君にとって俺は必要な存在だったから。

 君の中にこそ、俺の存在意義はあったんだ。存在価値はあったんだよ。
 でもさ、でもだからこそ今更ながらに気付くんだよ。本当に必要としていたのは、俺の方だったんじゃないのかってね。

 孤独を分け合える唯一の存在。
 そう、君となら喜びも悲しみも、孤独さえも分かち合えたはずだったんだ。
 だってそうだよね。グラウンドの休憩所でお互いの胸の内を露わにした俺達なら、お互いの気持ちをより深く理解し合えるはずだったんだから。

 何もかも気が付くのが遅かったんだ。
 もっと早くそれに気付いていたなら、それがたとえ昨夜のような偶然の再会だったとしても、君に対して正直に話す事が出来ていたんだろうからね。
 そして今の君を快く応援する事が出来ていたはずなんだよね。