明日へ馳せる思い出のカケラ

 希望と絶望のバランスは、いつだって釣り合いなんか取れやしない。いや、それどころかゼロを超えて簡単にマイナスになってしまう。

 たぶん人はそれを無意識に理解し、頑張って耐え続けて今を生きているんだろう。
 しかし俺みたいな脆弱男には現実を否定し続けるしかなく、報われない現実を逆恨みしながら世の中を憎む事しか出来ないんだ。
 幸せそうに今を生きる他者をねたみ、ひがむ事でしか生きて行けない。そんなみじめで腐りきった人間なんだよ、俺なんてさ!

「バンッ!」

 俺はおもむろに掴んだ財布を真正面に立つビルの壁に向かって叩きつけた。胸の内に溢れ返った怒りをぶち撒けるように、腹いせとして目一杯の力で財布を投げ捨てたんだ。
 怒りの矛先を見失った俺にはもう、そんな無意味な態度でしか感情を吐き出す事が出来なかったから。

 みんなにバカにされていた方が良かった。好成績なんていらなかった。
 ただ君さえ隣に居てくれれば、それだけで幸せだったんだ。

 それなのに俺は自分自身に酔いしれるだけで、君を御座なりにしてしまった。
 君の為にもっと努力していたのなら、未来は輝くばかりのものになっただろうに。

 でもさ、今更言えないよ。あの時こうしていればなんて。
 泣き言を叫べば叫ぶほど、底知れぬ虚しさに溺れるばかりなんだからさ。

 でもね、それでもね、
 俺は君の声が聞きたいよ。
 君の笑顔に癒されたいよ。
 君の温もりを感じたいよ――。


 半分に欠けた月を眺めながら、俺はそこに君を重ね合わせた。震える拳を強く握りながら、君への叶わない望みを切に願ったんだ。
 そして一度だけ大きく息を吐く。両方の肩に積み上がった自責を振り落すかの様に、力なくうな垂れたんだ。

 ただその拍子に俺はそこに見る錯覚に気が付いてしまった。目を逸らし続けていた自分の脆弱さに気付いてしまったんだ。

 恐らく全てを諦めたがゆえに、良い意味で体から強張った何かが抜け出てくれたんだろう。
 胸の奥に抱き続けていたシコリがポロッと剥がれ落ちた。そんな感じにね。

 そして弱すぎて誤魔化し続けていた自分自身を無防備に受け入れてしまったんだ。見えない君をずっと追い駆けていた自分を認めてしまったんだよ。
 でも逆にそれが俺自身の胸の内を軽くし、落ち着かせてくれたんだ。