でもそれを今更嘆いたところで何も変わりはしない。だから余計に腹が立つんだよ、自分自身に向けてさ。

 この怒りはどこにぶつければいいんだろうか。残酷に課せられただけの運命を呪うしかないのだろうか。

 俺の頭には言い訳がましい後ろめたさだけが無限に浮かび上がって来る。
 だって君がもう少し早く会場に駆け付けていたならば、その後の未来は大きく変わっていたのだろうから。もしそうだったとしたならば、きっと彼女の事も君と二人で支えてあげられたはずなんだから。

 しかし現実にはそうならなかった。俺の中にはいつまでも君が居て、そして彼女の嘘にも気付いていたから、だから俺は付き合い始めたのにもかかわらず、彼女に対して戸惑いを覚え、またその心意を問い質せなかったんだよ。
 だから最後まで俺は彼女に心を開けず、大切にしてあげられなかったんだ――。

 彼女は今、アメリカに行っているそうだ。なんでも彼女が抱える持病の専門医が見つかったらしい。
 たぶん彼女の事だから、遠い異国の地でも変わらずに饒舌なお喋りでもしているんだろう。
 そんな彼女に俺が抱く想いは、いつの日か丈夫な体を手に入れて日本に帰って来てほしい。そう願う気持ちだけなんだよね。

 俺と君の別れる原因が彼女にあったのは事実なんだろう。でも俺は彼女を恨む気にはなれないし、まして怒りなんて吐き出せるはずもない。
 だって俺が彼女に刻んだ心の傷のほうが、よっぽど痛ましいものだったはずだからね。

 俺には彼女の行く末が明るいものであれと願うことしか出来ない。
 でもその想いは俺の気持ちを幾分和らげさせてくれるんだ。彼女の呪縛からは解放された。そう自分自身に折り合いをつける事が出来たから。
 それはきっと彼女の心の暗闇を正確に理解したことで、俺自身が抱える同意義なそれを都合良く霞ませられたんだろう。

 だけど彼から告げられる話に俺の胸の内は一向に明るい兆しを感じる事が出来なかった。
 なぜならそこには俺の知らなかった、君の想いが多大に込められていたからなんだ。

 彼は短く続けた。君への想いに俺がどうケジメを付けるのか。その答えは自分自身でしか決められない。彼はそれを俺に理解してもらうために、最後の話しを切り出したんだ。

 恐らく彼はこの話をする為だけに、俺との繋がりを保っていたのではないか。そう思わずにはいられない。
 それほどまでに彼は覚悟を決めた眼差しを俺に差し向けていたからね。

 でもその目の奥には優しさが感じられる。厳しい中にも俺に前を向いてほしいって言う強い励ましの気持ちが伝わって来るんだ。