彼女はどんなつもりであの祝賀会に顔を出したのだろうか。
 俺と君の仲を取り持つ協力を彼に依頼された時、彼女は何を感じたのだろうか。

 嫌な考えばかりが俺の脳裏に浮かんでは消える。
 でも俺にはどうしても確信が持てなかったんだ。初めから彼女が俺と君の仲を引き裂こうとしてたなんてね。

 いい加減現実を見据えろって怒られるかも知れない。それでも俺には彼女が初めから悪意を込めて祝賀会に来たとは思えないんだ。
 だって祝賀会会場で彼女が俺に多くを語ったのは【君の良い所】についてばかりだったんだから。

 今になって思い出す。
 そうなんだ。あの時の彼女は他愛のない話しもしたけど、でもそれ以上に君の魅力を全面的に俺に告げ、その大切さを改めて知らしめようとしてくれていたんだ。
 キャプテンだった彼の依頼に快く従い、仲違いした俺と君をもう一度引き合わせようと努力している。そんなふうに俺の目には映ったはずなんだよ。
 そして俺はそんな彼女の態度に嬉しさを感じていたはずなんだ。

 俺の心情は矛盾しているだろうか。
 確かに会場で彼女の姿を一目した時、鳥肌が立つほどの違和感を覚えて息苦しくなった。それは彼女の心を蝕む嘘が垣間見えてしまったからに他ならない。
 でもそれから彼女が体調を崩すまでのそれなりの時間、ずっと彼女は君のことを褒めていたんだ。
 掛け替えのない親友として、君の事を心から慕い敬っていたんだよ。

 それなのに彼女は君を裏切ってしまった。
 その理由を判然と答えられる者はいないだろう。恐らく彼女自身ですら、明確にあの時の気持ちを捕えられていないだろうからね。
 ただ俺が思うに、彼女は酒に呑まれて気分を害してしまった事を、持病による命の危険だと誤認してしまったんじゃないのか。そしてそれが原因で湧き上がった恐怖心に苛まれ、救いを求める様にして俺を求めたんじゃないのか。
 俺はそう思わずにはいられないんだ。いや、そんな彼女の弱さを感じ取ってしまったからこそ、俺は彼女を受け入れてしまったんだよ。

 酒に酔った勢いで迫ったキスなんかじゃない。もちろん君への当て付けに見せしめようとしたわけでもない。
 ただ彼女は身近に感じる死という恐怖心から逃れたい為だけに、俺という温もりを必要としたんだ。

 悔しくて仕方がない。どうして俺は彼女の気持ちを少しでも理解しようとしなかったのか。
 もしあの時彼女の弱さを感じ取れていたならば、俺にはその寂しさを和らげる努力が出来たはずなんだ。もちろん【君】と一緒にね。