明日へ馳せる思い出のカケラ

 でも俺は彼女の想いにどこか釈然としない違和感を覚えていたんだよ。
 だって言葉では俺への愛情を強く語り掛けるのに、それなのに俺の心は冴えなく彼女の想いを感じ取る事が出来なかったんだから。

 ただあの時の俺にはそれを深く考えるなんて出来るはずがなかった。
 罪悪感に苛まれて、忸怩たる感情に溢れ返っていたからね。

 自分自身にテンパってて、彼女に抱いた妙な胸騒ぎになんか気を留める余裕が無かったんだよ。
 いや、それどころか俺は彼女の言葉を鵜呑みにし、君に取り返しのつかない暴言を浴びせてしまった。君が俺に寄せてくれる本当の愛情を無残にも踏みにじってしまったんだ。

 そして運命の就職祝賀会の日。
 俺は介抱する彼女から強引にキスされ、またその現場を君に目撃された事で全てが終わった。

 そうなんだ。あのキスが全てを物語っていたんだよ。
 だってあれは飲み慣れない酒に悪酔いした彼女の【戯れ事】だったんだから。

 彼が俺に対して正直に告げはじめた彼女特有の資質による危惧の念。
 それは彼女が嫉妬を主因とした【嘘】を、あたかも本心の様に吐き出してしまうっていう痣とさについてだったんだ。

 正直なところ聞きたくはなかった。
 それを知らなければ、俺は今をどうにか誤魔化して生きて行けたのだから。

 でも俺は彼女の心の闇を知ってしまった。そして結果的にそれが原因で君と別れた事も知ってしまったんだ。

 震え出した手が止まらない。
 キツイ圧迫感を覚えて吐き気が込み上げてくる。

 どうして彼女はそれほどまでに俺と君の関係を壊そうとしたのだろうか。
 なぜ彼女は強引なまでに俺を君から奪ったんだろうか。

 もちろんそんな権利が彼女に許されていたはずなんてない。それに彼女にしてみてもリスクは大きかったはずなんだ。
 だって親友であった君と絶交する未来を選択しなければならなかったんだからね。

 俺は強く拳を握りしめながら、込み上がって来る怒りを必死に抑え殺す。
 奥歯を目一杯の力で噛みしめなければ、憤りに満ちた猛々しい苛立ちは暴発し兼ねない。それほどまでに俺の感情は憤激に駆られてしまったんだ。