明日へ馳せる思い出のカケラ

 ぼやけていたはずの君の笑顔が、今では脳裏に明瞭な形でくっきりと映し出されている。そしてそれは消える事を許してはくれない。
 これこそが君を苦しめた俺への本当の報いなのだろうか。そう感じるほどに君の残像が俺の心をきつく締め上げていく。

 でももう勘弁してくれないだろうか。もう十分罪は償ったのではないだろうか。

 耐え難い苦しみにもがく俺は、ついに我慢の限界を超えてしまった。
 俺はそれまで堪えていた弱音を心の中で吐き捨ててしまったんだ。

 君は新しい彼という存在と今を生きている。それは明るい未来に繋がるとても素敵なものなのだろう。

 それと引き換えなどと言ったら語弊があるかもしれない。
 けどここまで来たのなら俺を許してはくれないだろうか。
 暗がりに繋がれた足枷を外してはくれないだろうか。

 君に迷惑を掛けるつもりはさらさらない。だからどうか、俺にも心の安らぎを望む権利を認めてはくれないだろうか。
 俺は初めて本心から切にそう嘆いてしまったんだ。

 朝が来るのと共にバイトを終えた俺は、冷たい雨が降りしきる中逃げる様にして急ぎ帰宅した。
 そして分厚く雲掛かった空を、か弱く白焼けさせる朝の明りがカーテンの隙間より差し込む部屋で、布団にくるまりながら願ったんだ。

 もう耐えられない。こんな生活から解放されたい。いっその事、誰か俺を楽にさせてくれないか――ってね。

 目から無数の水滴が流れ落ちるのが分かる。でもそんな事に構ってなんかいられない。
 俺は僅かでもいいから自分自身の抱く希望にすがりたかったんだ。
 でも俺の頭の中は消極的かつ否定的な考えで苛まれていた。
 きっと今日は悪夢にうなされるのだろう。それも今まで見たどの悪夢よりもキツイ悪夢によってだろうってね。

 眠りたくない。いや、眠れない。
 悶々とした冴えないわだかまりを抱きながら、俺は小さく身をすくめている事しか出来なかった。

 シーツを冷たい涙でいっぱいに湿らせながら、震える手でそれを強く握りしめている。
 その姿をもし他人が見たとしたならば、それは疲れ果てたがゆえに、土に埋もれただけの醜いモグラの姿に重なって映ったかも知れない。
 それほどまでに俺は光を拒絶し、暗闇に留まろうとうずくまっていたんだからね――。