明日へ馳せる思い出のカケラ

 全てを見透かされている。
 俺はそう感じた。そうとしか考えられなかった。

 意識が過敏になり過ぎていたのかも知れない。
 でも俺は無防備にも君の笑顔を真正面から受け止めてしまったんだ。いや、それを受け流せるだけの抵抗力が備わっていなかったんだよ。
 だから俺はこれ以上無いほどみじめで卑しい気持ちに蝕まれてしまったんだ。

 こんな姿、君だけには見られたくなかった。

 込み上げてくる苦々しさに胸が押し潰されそうになる。
 陽の当たる場所で正々堂々と今を生きる君と、地ベタを這いつくばりながら生き甲斐も無くその日を暮す俺。
 そんな二人の生き様を比較すれば、どちらが望ましいものなのかはあえて口にするまでもない。
 そして痛いほどにそれが覆しようのない現実の姿なんだって事が理解出来る。

 ううん、それを必要以上に理解してしまったからこそ、俺は自分の不甲斐なさに思い返しては身悶えするばかりだったんだ。

 どう言い訳を取りつくろったところで、君を欺けやしない。
 だって君はバイト姿の俺を目の当たりにすることで、皮肉なまでの現実を把握しただろうからね。

 そして恐らく君は、俺の心に潜む暗い影までも見透かしてしまったんだろう。
 俺が彼に向けた哀れなひがみ根性と、大人の女性へと成長した君を見つめる気恥ずかしさ。それを十分に察したからこそ、君は無垢な笑顔で微笑んでいられたんだ。

 俺を不憫に思う感情がにじみ出た笑顔なんだろう。
 そう思わずにはいられない。いや、そう自分自身に暗示を掛けなければ、とても平静を装ってなんかいられやしないんだ。
 だって君が俺に差し向けた笑顔は、彼に向けたそれとは明らかに毛色が異なるものだったんだから――。

「君の綺麗さに緊張でもしたのかな」

 去り際に彼が君へ放ったその一言が耳に付く。

 悔しかった。腹が立った。でもどうする事も出来なかった。
 だって仕方ないだろ。どう足掻いたって君との距離は埋め合わせられやしないんだし、まして君との関係を修復するなんて望んですらいけない事なんだから。

 夜が明けるのがひどく長く感じた。
 とっとと家に帰って布団の中に逃げ込みたい。
 そう願えば願うほどに、時間の経過は俺にとって苦痛へと変化していくばかりだった。