明日へ馳せる思い出のカケラ

「これもついでに頼むよ」

 不意に現れた第三者という存在。

 歳は三十歳前後といったところか。
 大柄でガッチリとした体つきはいかにも健康そうに見え、学生時代にラグビーでもやっていたんじゃないかって想像するほどたくましい。

 そして顔つきはイケメンと言うよりは男くさいと言った方がしっくりくるだろう。
 動物に例えるならば間違いなく【熊】と呼べる。

 でもそれは決して悪い表現ではない。同性の俺から見ても、どこか好感が持てる印象を得たほどだからね。
 無骨なれど穏やかな雰囲気が伝わって来る。恐らくその人柄も皆に慕われるものなのだろう。
 君にしてみれば頼れる上司。そんなところか。

 その【彼】は君がレジ台に置いた買い物カゴに、手にしていた野菜ジュースを無造作に投げ入れた。
 君の買い物と一緒に会計するのを目的としてね。

 ただそれに対して君は一瞬だけど気まずい表情を浮かべたんだ。
 俺にはそれが少しだけ胸につかえた。なんとなく違和感を覚えたんだよね。

 混迷を極めていたはずの脳ミソが急速に回転を始める。
 理由は判然としないまでも、突如として冷え込んだ胸の内がオーバーヒート寸前の精神状態を強制的に落ちつかせたのだろう。
 そしてそんな俺の耳に届いたのは、

「乱暴に扱わないでよ。中身が出ちゃったらどうするのよ」っていう、君が彼に向けて返した親しみのある言葉使いだったんだ。

 そのやり取りを見た俺は瞬時に察した。直感として確信したんだよ。
 彼は君の単なる先輩社員なんかじゃない。もっと親密な関係を築いている存在なんだってね。

 胸の鼓動がさらに激しく高鳴っていく。
 目の前にいる君や彼に聞こえてしまうんじゃないのか。
 そう思えるくらいに俺の心臓は大きく波打っていたんだ。

 ちくしょう。このままじゃジリ貧になるだけじゃないか。
 意図せず君との再会を果たしてしまった。それだけでも一大事だっていうのに、その隣には俺の【知らない彼】がいる。
 そして僅かにも冷静な判断力を取り戻してしまったばかりに、俺は余計な窮地に追い込まれる羽目になってしまったんだ。

 どうすればいい。どうすれば目の前の深刻な問題に対処することが出来るんだって具合にね。