すっかりご馳走になってお腹がいっぱいなだけでなく、いろいろな話に胸がいっぱいになっていた。
満たされた気持ちでお店を出たあと、三人で夜の駐車場を歩く。
「アキ」
「うん?」
「ナツと話してみて。もう、落ち着いたみたいだから」
まったり和んだ雰囲気だったのが、急に空気が変わった気がした。
「悪いね、レイちゃんにばかり頼りっぱなしで……」
「いいのよ。なんなら、うちの愚弟より可愛いっつうの」
「こらこら。でも、そう言ってもらえると……」
「大切なのは、ナツにとって頼れる誰かがいるということなんだから」
「ありがとう。助かるよ、本当に」
(夏生さんにいったい何が? すごく気になる。気になるけど……)
「部屋のこともあるし、近々ちゃんと話をしなきゃとは思ってはいたんだ。けど、なにしろ状況がよくわからなかったから。連絡とって大丈夫そうだと言うなら、さっそく話してみるよ」
「そうしてちょうだい」
麗華先生はそう言って彼に微笑むと、今度は私に向かって言った。
「ナツはね、兄弟の中で一番優しい子よ。清水さんとも気が合うんじゃないかしら」
今日は思いがけず彼の家族のことをたくさん聞かせてもらったけれど。
知ることができて嬉しい反面、知ったからこそ新たに考えさせられることもあって……。
私はちょっと複雑な気持ちで曖昧に微笑んだ。
帰りの車に乗り込んでシートベルトを締めていると、麗華先生の車が先に挨拶がわりのクラクションを可愛く鳴らして去って行った。
「今日はすまなかったね」
「え?」
「異動のこととか、驚かせてしまってごめん」
車が滑らかに走り出し、彼は前を見てハンドルを握ったまま話を続けた。
「本当、レイちゃんにはかなわないな。まさか、ああくるとは思わなかったよ」
ちょっと情けなさそうに溜息をつく彼の横顔が、やっぱり愛おしい。
「今さらながら、あらためて聞かせて欲しいのだけど」
「え?」
「僕と一緒に来てもらえるだろうか?」
信号が赤に変わって、車が静かに停止する。
彼の瞳がまっすぐに私を見つめる。
「そばにいて僕を支えて欲しい」
(だめだこれ、泣いちゃうやつだ……)
泣きそうなくらい嬉しくて、幸せで。
「どう、だろうか?」
(どうしよう、なんかうまく喋れない)
悲しすぎて涙がでない、なんて聞いたことがあるけれど。
嬉しすぎたり、幸せすぎたりすると、声が出なくなるものなの?
返事はもちろん決まっているのに。
なのに、私がようやく絞り出した言葉は――。
「信号、青ですっ」
「あ、っと。本当だ」
彼が苦笑いしながら、再び前を向いて運転に集中する。
(どうしよう、タイミングを逸してしまったっ)
けれども、こんなどうしようもないヘタレ彼女にも彼は優しいから。
「“セット流し”」
「へ?」
「ほら、僕が一人で流されることがあれば、君は流され先について行くと言ってくれたじゃない? でも、今回は言ってみれば“セット流し”だから。知らない街で職探しする必要もないよ? どう?」
(もう、そうやっていつも、この人は……)
どうして彼はこんなに優しいのだろう。
どうして、こんなにも私の琴線に優しく触れてくるのだろう。
「島流しじゃなくて、ご栄転じゃないですか」
もう泣いているんだが笑っているんだが、わけがわからない。
「雇われ院長だけどね。ほら、雇われ店長とか、雇われママとか、そういう感じ?」
「もう……」
満たされた気持ちでお店を出たあと、三人で夜の駐車場を歩く。
「アキ」
「うん?」
「ナツと話してみて。もう、落ち着いたみたいだから」
まったり和んだ雰囲気だったのが、急に空気が変わった気がした。
「悪いね、レイちゃんにばかり頼りっぱなしで……」
「いいのよ。なんなら、うちの愚弟より可愛いっつうの」
「こらこら。でも、そう言ってもらえると……」
「大切なのは、ナツにとって頼れる誰かがいるということなんだから」
「ありがとう。助かるよ、本当に」
(夏生さんにいったい何が? すごく気になる。気になるけど……)
「部屋のこともあるし、近々ちゃんと話をしなきゃとは思ってはいたんだ。けど、なにしろ状況がよくわからなかったから。連絡とって大丈夫そうだと言うなら、さっそく話してみるよ」
「そうしてちょうだい」
麗華先生はそう言って彼に微笑むと、今度は私に向かって言った。
「ナツはね、兄弟の中で一番優しい子よ。清水さんとも気が合うんじゃないかしら」
今日は思いがけず彼の家族のことをたくさん聞かせてもらったけれど。
知ることができて嬉しい反面、知ったからこそ新たに考えさせられることもあって……。
私はちょっと複雑な気持ちで曖昧に微笑んだ。
帰りの車に乗り込んでシートベルトを締めていると、麗華先生の車が先に挨拶がわりのクラクションを可愛く鳴らして去って行った。
「今日はすまなかったね」
「え?」
「異動のこととか、驚かせてしまってごめん」
車が滑らかに走り出し、彼は前を見てハンドルを握ったまま話を続けた。
「本当、レイちゃんにはかなわないな。まさか、ああくるとは思わなかったよ」
ちょっと情けなさそうに溜息をつく彼の横顔が、やっぱり愛おしい。
「今さらながら、あらためて聞かせて欲しいのだけど」
「え?」
「僕と一緒に来てもらえるだろうか?」
信号が赤に変わって、車が静かに停止する。
彼の瞳がまっすぐに私を見つめる。
「そばにいて僕を支えて欲しい」
(だめだこれ、泣いちゃうやつだ……)
泣きそうなくらい嬉しくて、幸せで。
「どう、だろうか?」
(どうしよう、なんかうまく喋れない)
悲しすぎて涙がでない、なんて聞いたことがあるけれど。
嬉しすぎたり、幸せすぎたりすると、声が出なくなるものなの?
返事はもちろん決まっているのに。
なのに、私がようやく絞り出した言葉は――。
「信号、青ですっ」
「あ、っと。本当だ」
彼が苦笑いしながら、再び前を向いて運転に集中する。
(どうしよう、タイミングを逸してしまったっ)
けれども、こんなどうしようもないヘタレ彼女にも彼は優しいから。
「“セット流し”」
「へ?」
「ほら、僕が一人で流されることがあれば、君は流され先について行くと言ってくれたじゃない? でも、今回は言ってみれば“セット流し”だから。知らない街で職探しする必要もないよ? どう?」
(もう、そうやっていつも、この人は……)
どうして彼はこんなに優しいのだろう。
どうして、こんなにも私の琴線に優しく触れてくるのだろう。
「島流しじゃなくて、ご栄転じゃないですか」
もう泣いているんだが笑っているんだが、わけがわからない。
「雇われ院長だけどね。ほら、雇われ店長とか、雇われママとか、そういう感じ?」
「もう……」



