確かに職場が別々になれば、そのとおり。
おずおずと彼のほう見ると――。
(ええっ、フリーズしてる???)
「清水さん。説明はまだ終わっていないのだけど?」
「あ、はいっ。すみません」
私は慌てて麗華先生のほうへ向き直った。
「清水さんにはぜひとも新しい院長を支えていただけたらと」
彼と私のことを心から応援してくださっている麗華先生の判断だもの。
(精一杯、心をこめてつとめよう)
「私」
「ちなみに」
「え?」
「院長は、保坂先生のおまかせすることになってまーす」
「…………ええっ!?」
あまりの衝撃に混乱しつつ彼を見ると――。
(ちょっ……なんか脱力してる???)
私と目が合った彼はなんとも言えない表情で黙って大きく頷いた。
「ごめーん。ちょーっともったいつけすぎちゃいましたー」
麗華先生が「てへっ」とお茶目に笑って見せても、やっぱり一緒に笑えるわけもなく。
「私、まだちょっと何がなんだが……」
「新しいクリニックでアキと一緒に頑張ってちょうだいという意味よ」
「それはその……だって、でも……こんなことって……」
「驚いているのは君だけじゃなくて、僕も同じだよ」
「えっ」
「僕の異動の話を打ち明けようとしたら、レイちゃんが遮ってきて。何かと思えば、だよ。ほんっと、聞いてなかったんだから」
恨めしそうな顔をする彼を、麗華先生が「フフン」と鼻で笑う。
「アキが素直じゃないから。とういか、見通しが甘いからよ」
麗華先生は、新しいクリニックの開院について概要を説明してくださった。
「アキが週一の非常勤で勤務しているクリニックがあるでしょ? そこをね、ウチの法人のクリニックとして新たに開院するという話なの。大先生がかなりご高齢でね。子どもさんにも後を継ぐ人がいなくて」
「そうだったんですね」
「設備なんかも古くなってるから、新しくキレイにしてからウチの法人の看板で再スタートするみたいなイメージね。ファミリー向けのマンションがどんどん新築されているエリアで、こちらとしても美味しい話で。お互いにまあ利益のある話だと」
「なるほど……」
「アキは自分が異動してあなたと別々の職場になるのがいいことと考えていたみたいだけれど」
麗華先生にじろりと睨まれ、彼がばつが悪そうに目をそらす。
「確かに今のメンバーだと、うっかりあなたたちの関係を知られたらやりにくくなるでしょう。とくに、アキはともかく清水さんが辛い思いをしてしまうかもしれない。アキの懸念はもっともだと思うわ。でも、それはそれとして。もっと俯瞰して物事を考えてみなさいよ。そうしたら、別の選択肢が見えてくるはずじゃない?」
「レイちゃん……」
「あなたねぇ、ゼロからの新規立ち上げとは少し違うからって、やっぱり大変なんですからね。どうしたって信頼できる人が近くにいたほうがいいに決まってる。あなたたちふたりの関係が今後どう展開するにせよ、アキの仕事はスタッフみんなが気持ちよく働ける環境を作ることよ。わかってる? わかった?」
麗華先生の口調は厳しいけれど、やっぱりじんわりあたたかかった。
「考えが至らず、申し訳ありません」
彼が折り目正しく頭を下げると、麗華先生はニヤリと笑って意地悪く言った。
「本当は彼女を連れて行きたい気持ちがあったくせに。支えが必要と考えたなら、初めから素直に頭下げてくりゃあよかったのよ。まったく」
「面目ない……」
「だいたいあなたはいつも――」
「勘弁してよもう、仕事できっちり返せるように頑張るから」
「当然よ」
おずおずと彼のほう見ると――。
(ええっ、フリーズしてる???)
「清水さん。説明はまだ終わっていないのだけど?」
「あ、はいっ。すみません」
私は慌てて麗華先生のほうへ向き直った。
「清水さんにはぜひとも新しい院長を支えていただけたらと」
彼と私のことを心から応援してくださっている麗華先生の判断だもの。
(精一杯、心をこめてつとめよう)
「私」
「ちなみに」
「え?」
「院長は、保坂先生のおまかせすることになってまーす」
「…………ええっ!?」
あまりの衝撃に混乱しつつ彼を見ると――。
(ちょっ……なんか脱力してる???)
私と目が合った彼はなんとも言えない表情で黙って大きく頷いた。
「ごめーん。ちょーっともったいつけすぎちゃいましたー」
麗華先生が「てへっ」とお茶目に笑って見せても、やっぱり一緒に笑えるわけもなく。
「私、まだちょっと何がなんだが……」
「新しいクリニックでアキと一緒に頑張ってちょうだいという意味よ」
「それはその……だって、でも……こんなことって……」
「驚いているのは君だけじゃなくて、僕も同じだよ」
「えっ」
「僕の異動の話を打ち明けようとしたら、レイちゃんが遮ってきて。何かと思えば、だよ。ほんっと、聞いてなかったんだから」
恨めしそうな顔をする彼を、麗華先生が「フフン」と鼻で笑う。
「アキが素直じゃないから。とういか、見通しが甘いからよ」
麗華先生は、新しいクリニックの開院について概要を説明してくださった。
「アキが週一の非常勤で勤務しているクリニックがあるでしょ? そこをね、ウチの法人のクリニックとして新たに開院するという話なの。大先生がかなりご高齢でね。子どもさんにも後を継ぐ人がいなくて」
「そうだったんですね」
「設備なんかも古くなってるから、新しくキレイにしてからウチの法人の看板で再スタートするみたいなイメージね。ファミリー向けのマンションがどんどん新築されているエリアで、こちらとしても美味しい話で。お互いにまあ利益のある話だと」
「なるほど……」
「アキは自分が異動してあなたと別々の職場になるのがいいことと考えていたみたいだけれど」
麗華先生にじろりと睨まれ、彼がばつが悪そうに目をそらす。
「確かに今のメンバーだと、うっかりあなたたちの関係を知られたらやりにくくなるでしょう。とくに、アキはともかく清水さんが辛い思いをしてしまうかもしれない。アキの懸念はもっともだと思うわ。でも、それはそれとして。もっと俯瞰して物事を考えてみなさいよ。そうしたら、別の選択肢が見えてくるはずじゃない?」
「レイちゃん……」
「あなたねぇ、ゼロからの新規立ち上げとは少し違うからって、やっぱり大変なんですからね。どうしたって信頼できる人が近くにいたほうがいいに決まってる。あなたたちふたりの関係が今後どう展開するにせよ、アキの仕事はスタッフみんなが気持ちよく働ける環境を作ることよ。わかってる? わかった?」
麗華先生の口調は厳しいけれど、やっぱりじんわりあたたかかった。
「考えが至らず、申し訳ありません」
彼が折り目正しく頭を下げると、麗華先生はニヤリと笑って意地悪く言った。
「本当は彼女を連れて行きたい気持ちがあったくせに。支えが必要と考えたなら、初めから素直に頭下げてくりゃあよかったのよ。まったく」
「面目ない……」
「だいたいあなたはいつも――」
「勘弁してよもう、仕事できっちり返せるように頑張るから」
「当然よ」



