ほどなくしてお料理がきて、三人で一緒に手を合わせて「いただきます」をした。
(なんだか、麗華先生がお姉さんで、彼と私が弟と妹みたい……)
ほっこりした雰囲気に、思わず心がゆるっと和む。
「さあ、いただきましょう!」
にっこり笑う麗華先生に促されて、お重のふたに手をかける。
「千佳さん、くれぐれも気をつけて」
「え?」
彼は神妙な面持ちでこう続けた。
「ふたを開けた途端にまばゆい光が放たれるので、目を――」
「某グルメ漫画のアレですね……」
「ほら、すでにもう隙間から光がもれて」
まったく、彼はふいにこういうしょーもないことをしでかすから。
もっとも、こんなふたりになるまではちっとも知らなかったのだけど。
もっぱら不愛想と言われる彼の、可愛くってとぼけた仕方のないところ。
「私は、“なんちゃらの宝石箱やー”とか“デパートやー”とか言えばいいです?」
「いや、それはまた違うやつでしょ」
「面倒くさいです……」
私はわざとげんなり溜息をついた。
そんなふたりのやりとりに、麗華先生がしみじみと言う。
「あなたたち、ほんっとうに仲良しねぇ」
呆れたような口調でいて、その表情はとびきり優しさにあふれていた。
あたたかく、やわらかく、慈しみ深く。
(なんか、嬉しくなっちゃう……)
周りからどう見えるかを気にしたことはなかったけれど。
それでもやっぱり、似つかわしいふたりとして映っているのなら、それはそれで、気恥ずかしくも素直に嬉しかった。
ゆっくりと食事を楽しみながら、いろいろと普段はあまりしない話をした。
「カルテといえば、貴志クンと桑野クンには困ったものだわねぇ」
(え? 貴志クン? 桑野クン?)
麗華先生から初めて聞くその呼び方に、かなり驚く。
「桑野クンはお父様から“鍛えてやってくれ”とお預かりしている子だから、いろいろ言いやすいのだけどね。実際まだまだ修行中の身で、言わないとどうしようもないとこ多いしさ。でもなぁ、貴志クンは難しいんだなあ」
麗華先生がちょっと気だるげに溜息をつく。
私は少し遠慮がちに質問した。
「あの、貴志先生が難しいというのは……?」
「ああうん、なんていうかね。院長としては、もう少し頑張ってもらえたら有難いというか。ついつい若手に期待してしまうってあるじゃない? でも、彼の仕事が足りていないかというと不足はない。要領がいいからね、彼は」
「なるほど……」
「その点、“あなたの保坂先生”は完璧よ。アキのカルテはよく整理されていて詳しいからね。患者さんに同じことを何度も説明させたりしなくて済むもの」
同じ患者さんをいつも同じ医師が診るとは限らない。
だからこそ、記録と情報共有は大切なのだ。
それにしても、“あなたの保坂先生”だなんてそんな……。
「あの、“私の”ではなくて“みんなの保坂先生”ですので」
「あらー、謙虚だこと」
「すみませんね、要領が悪くて」
「ちょっと、アンタはそこかいな!」
麗華先生は、褒められたのに不貞腐れている彼を窘めるように言った。
「あなた、貴志クンが絡むとどうしてそう卑屈になるわけ? 前は別にそんなこと――」
言いかけて、麗華先生の表情が「はっ」とする。
「清水さん」
「えっ。あ、はいっ」
「あなた、貴志クンと何かあった?」
(ええっ……)
「何か、と言いますと……?」
「たとえば、業務に関係ないあなた個人のことを聞かれたりとか」
基本的に、貴志先生とは意識的に距離を置いている。
貴志先生が出勤のときは、お昼も外でとるようにしてスタッフルームに近づかないようにしているし。
だから、心当たりになるようなことといえば―ー。
「ええと、以前にですね、“君の実家はお米屋さんなの?”と聞かれたことがありましたけど……」
そのときの状況と会話の流れを説明すると、麗華先生は「ふーむ」と何か思案する顔をした。
(なんだろう、すごく気になる。ざわざわする)
「あの、貴志先生が何か……?」
「実はね、貴志クンがあなたのことを聞いてきたことがあって」
「ええっ」
(なんだか、麗華先生がお姉さんで、彼と私が弟と妹みたい……)
ほっこりした雰囲気に、思わず心がゆるっと和む。
「さあ、いただきましょう!」
にっこり笑う麗華先生に促されて、お重のふたに手をかける。
「千佳さん、くれぐれも気をつけて」
「え?」
彼は神妙な面持ちでこう続けた。
「ふたを開けた途端にまばゆい光が放たれるので、目を――」
「某グルメ漫画のアレですね……」
「ほら、すでにもう隙間から光がもれて」
まったく、彼はふいにこういうしょーもないことをしでかすから。
もっとも、こんなふたりになるまではちっとも知らなかったのだけど。
もっぱら不愛想と言われる彼の、可愛くってとぼけた仕方のないところ。
「私は、“なんちゃらの宝石箱やー”とか“デパートやー”とか言えばいいです?」
「いや、それはまた違うやつでしょ」
「面倒くさいです……」
私はわざとげんなり溜息をついた。
そんなふたりのやりとりに、麗華先生がしみじみと言う。
「あなたたち、ほんっとうに仲良しねぇ」
呆れたような口調でいて、その表情はとびきり優しさにあふれていた。
あたたかく、やわらかく、慈しみ深く。
(なんか、嬉しくなっちゃう……)
周りからどう見えるかを気にしたことはなかったけれど。
それでもやっぱり、似つかわしいふたりとして映っているのなら、それはそれで、気恥ずかしくも素直に嬉しかった。
ゆっくりと食事を楽しみながら、いろいろと普段はあまりしない話をした。
「カルテといえば、貴志クンと桑野クンには困ったものだわねぇ」
(え? 貴志クン? 桑野クン?)
麗華先生から初めて聞くその呼び方に、かなり驚く。
「桑野クンはお父様から“鍛えてやってくれ”とお預かりしている子だから、いろいろ言いやすいのだけどね。実際まだまだ修行中の身で、言わないとどうしようもないとこ多いしさ。でもなぁ、貴志クンは難しいんだなあ」
麗華先生がちょっと気だるげに溜息をつく。
私は少し遠慮がちに質問した。
「あの、貴志先生が難しいというのは……?」
「ああうん、なんていうかね。院長としては、もう少し頑張ってもらえたら有難いというか。ついつい若手に期待してしまうってあるじゃない? でも、彼の仕事が足りていないかというと不足はない。要領がいいからね、彼は」
「なるほど……」
「その点、“あなたの保坂先生”は完璧よ。アキのカルテはよく整理されていて詳しいからね。患者さんに同じことを何度も説明させたりしなくて済むもの」
同じ患者さんをいつも同じ医師が診るとは限らない。
だからこそ、記録と情報共有は大切なのだ。
それにしても、“あなたの保坂先生”だなんてそんな……。
「あの、“私の”ではなくて“みんなの保坂先生”ですので」
「あらー、謙虚だこと」
「すみませんね、要領が悪くて」
「ちょっと、アンタはそこかいな!」
麗華先生は、褒められたのに不貞腐れている彼を窘めるように言った。
「あなた、貴志クンが絡むとどうしてそう卑屈になるわけ? 前は別にそんなこと――」
言いかけて、麗華先生の表情が「はっ」とする。
「清水さん」
「えっ。あ、はいっ」
「あなた、貴志クンと何かあった?」
(ええっ……)
「何か、と言いますと……?」
「たとえば、業務に関係ないあなた個人のことを聞かれたりとか」
基本的に、貴志先生とは意識的に距離を置いている。
貴志先生が出勤のときは、お昼も外でとるようにしてスタッフルームに近づかないようにしているし。
だから、心当たりになるようなことといえば―ー。
「ええと、以前にですね、“君の実家はお米屋さんなの?”と聞かれたことがありましたけど……」
そのときの状況と会話の流れを説明すると、麗華先生は「ふーむ」と何か思案する顔をした。
(なんだろう、すごく気になる。ざわざわする)
「あの、貴志先生が何か……?」
「実はね、貴志クンがあなたのことを聞いてきたことがあって」
「ええっ」



