白衣とエプロン①恋は診療時間外に

ほどなくしてお料理がきて、三人で一緒に手を合わせて「いただきます」をした。

(なんだか、麗華先生がお姉さんで、彼と私が弟と妹みたい……)

ほっこりした雰囲気に、思わず心がゆるっと和む。

「さあ、いただきましょう!」

にっこり笑う麗華先生に促されて、お重のふたに手をかける。

「千佳さん、くれぐれも気をつけて」

「え?」

彼は神妙な面持ちでこう続けた。

「ふたを開けた途端にまばゆい光が放たれるので、目を――」

「某グルメ漫画のアレですね……」

「ほら、すでにもう隙間から光がもれて」

まったく、彼はふいにこういうしょーもないことをしでかすから。

もっとも、こんなふたりになるまではちっとも知らなかったのだけど。

もっぱら不愛想と言われる彼の、可愛くってとぼけた仕方のないところ。

「私は、“なんちゃらの宝石箱やー”とか“デパートやー”とか言えばいいです?」

「いや、それはまた違うやつでしょ」

「面倒くさいです……」

私はわざとげんなり溜息をついた。

そんなふたりのやりとりに、麗華先生がしみじみと言う。

「あなたたち、ほんっとうに仲良しねぇ」

呆れたような口調でいて、その表情はとびきり優しさにあふれていた。

あたたかく、やわらかく、慈しみ深く。

(なんか、嬉しくなっちゃう……)

周りからどう見えるかを気にしたことはなかったけれど。

それでもやっぱり、似つかわしいふたりとして映っているのなら、それはそれで、気恥ずかしくも素直に嬉しかった。

ゆっくりと食事を楽しみながら、いろいろと普段はあまりしない話をした。

「カルテといえば、貴志クンと桑野クンには困ったものだわねぇ」

(え? 貴志クン? 桑野クン?)

麗華先生から初めて聞くその呼び方に、かなり驚く。

「桑野クンはお父様から“鍛えてやってくれ”とお預かりしている子だから、いろいろ言いやすいのだけどね。実際まだまだ修行中の身で、言わないとどうしようもないとこ多いしさ。でもなぁ、貴志クンは難しいんだなあ」

麗華先生がちょっと気だるげに溜息をつく。

私は少し遠慮がちに質問した。

「あの、貴志先生が難しいというのは……?」

「ああうん、なんていうかね。院長としては、もう少し頑張ってもらえたら有難いというか。ついつい若手に期待してしまうってあるじゃない? でも、彼の仕事が足りていないかというと不足はない。要領がいいからね、彼は」

「なるほど……」

「その点、“あなたの保坂先生”は完璧よ。アキのカルテはよく整理されていて詳しいからね。患者さんに同じことを何度も説明させたりしなくて済むもの」

同じ患者さんをいつも同じ医師が診るとは限らない。

だからこそ、記録と情報共有は大切なのだ。

それにしても、“あなたの保坂先生”だなんてそんな……。

「あの、“私の”ではなくて“みんなの保坂先生”ですので」

「あらー、謙虚だこと」

「すみませんね、要領が悪くて」

「ちょっと、アンタはそこかいな!」

麗華先生は、褒められたのに不貞腐れている彼を窘めるように言った。

「あなた、貴志クンが絡むとどうしてそう卑屈になるわけ? 前は別にそんなこと――」

言いかけて、麗華先生の表情が「はっ」とする。

「清水さん」

「えっ。あ、はいっ」

「あなた、貴志クンと何かあった?」

(ええっ……)

「何か、と言いますと……?」

「たとえば、業務に関係ないあなた個人のことを聞かれたりとか」

基本的に、貴志先生とは意識的に距離を置いている。

貴志先生が出勤のときは、お昼も外でとるようにしてスタッフルームに近づかないようにしているし。

だから、心当たりになるようなことといえば―ー。

「ええと、以前にですね、“君の実家はお米屋さんなの?”と聞かれたことがありましたけど……」

そのときの状況と会話の流れを説明すると、麗華先生は「ふーむ」と何か思案する顔をした。

(なんだろう、すごく気になる。ざわざわする)

「あの、貴志先生が何か……?」

「実はね、貴志クンがあなたのことを聞いてきたことがあって」

「ええっ」