考えてみると――仕事で辛いときにいつも思うのは、保坂先生のことだった。保坂先生がいてくれたら、保坂先生ならきっとわかってくれるのに。その気持ちは信頼か、或いは「ダメな自分」の甘えだとばかり思っていた。

保坂先生が優しいから。誠実だから。公平だから。でも、だからじゃないんだ。だって、優しければ誰でもよかったわけじゃないもの。きっと、保坂先生だから――そう、先生が私に「君だから」と言ってくれたように。

「もう、私なんてずっとやきもきしてたんだからね。だからって、出しゃばっていくわけにもいかないしさ」

「すみません……」

「でも、気づけてよかったじゃない? そりゃあ、元カレが現れたのは災難だったでしょうけど」

「そうですね」

私はずっと好きだったんだ、保坂先生のことが。だから――応援したくて、頼りにしたくて。先生が褒められると嬉しくて、けなされると悔しくて。

キラキラとか、キュンキュンとか、そういうテンションとはどこか違う。でも、信頼と尊敬という土壌に落ちた種は、知らないうちに芽を出して、ゆっくりしなやかに育っていたんだ。そうして――咲いた花は「恋」だった。

「アキは自覚あったんじゃないかしらね、あなたと違って」

「えっ」

「だって、いつも飴ちゃんを渡すのは清水さんにでしょ。あれ、絶対にわざとよ。少しでも接点持ちたいっていう、涙ぐましい作戦ね」

「ええっ」

ぜんっぜん思いもしなかった。

「あなた、鈍感というか自分に自信がなさすぎるのよ」

「だって、そんな……」

先生がまさか私のことをそんなふうに想ってくれているなんて。どんなに優しくされても考えられなくて。だからこそ、昨日は本当に嬉しかった。先生が率直に好きだと告げてくれたことが。

「だいたいねぇ、アキだってヘタレだけど男なんだからね」

「麗華先生、その言い方はひどいですっ」

保坂先生は私のことを守ってくれたもの。

「押しが弱いのよ、アイツは。けど、下心は無いはずないんだから。いくら同僚だからって、あなたでなきゃ家に泊めたりしないわよ」

「え?」

「例えば、あなたじゃなくて福山さんでも助けはしたでしょうよ。でも、安全なホテルにでも行きなさいってお金貸してあげて終了だったんじゃないかしらね」

「そう、でしょうか……」

「そうよ。それに、嫉妬もあったんじゃないかな。あなたを振り回している元カレに」

(保坂先生……)

私の身を真剣に案じてくれた保坂先生。元カレに本気で腹を立てていた先生の表情が目に浮かんだ。