目が合うと、先生はおかしそうにくすりと笑った。


「猫を相手にあんなふうに律儀に挨拶するとは」

「先生に言われたくないです……」


先生だって律儀じゃないですか。

私のこと、丁寧に紹介してくれたじゃないですか。

大切なお客様だからね、って……。

グレちゃんも可愛いけど、グレちゃんに話しかける保坂先生も実は可愛かったりして。

ここだけの話――ほっこりしながら、思わずきゅんとしてしまった。

先生の口添えがあったからだろうか?

グレちゃんは後を追うように玄関からリビングへやってくると、私のそばへきてふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。


「どうやら気に入られたようですね」

「そ、そうでしょうか?」

「はい、めずらしいです。グレはこれでいて警戒心が強いのですが」


先生がすすめてくれたので鼻先にそっと手を近づけてみると、グレちゃんはぐしぐしと頭や頬を擦り付けてきた。


「可愛すぎますね、グレちゃん」

「そうですか? 僕は家族みたいなものなので、あまり可愛いだのなんだのという感情は……」

「ええーっ、こんなに可愛いのに!?」

「可愛いの種類が違うのかもしれません」


うーん、さすが筆頭飼い主です……。


先生はリビングに隣接した和室に私の荷物を運んでくれた。


「この部屋を使ってください。畳があるのでグレは立ち入り禁止ですが」

「ありがとうございます」


グレちゃんと一緒に寝られないのは残念だけど仕方がない。

せっかくのキレイな畳がバリバリのギッタンギッタンにされちゃうものね。