白衣とエプロン①恋は診療時間外に

私、完全にからかわれてる???

まえからちょっと思っていたけど、保坂先生は案外意地悪なのだ。

意地悪といっても、貴志先生のそれとは違う。

誰かを貶めたり傷つけることのない優しい意地悪。

こうしてまんまと先生の術中にはまってしまうのは、ちょっと恥ずかしくもあり悔しくもある。

なのに――どこか嬉しいのはなぜだろう?

答えを探れば心がひどく揺らめいて、私はそれを悟られまいと務めて明るく話しかけた。


「先生は、今日はお出かけだったんですか?」

「外で仕事でした。麗華先生の代わりに」

「麗華先生の?」

「そう。市民向け講座の講師をやってきました」


先生は「元々は麗華先生に依頼がきた話だったのに」と、疲れた様子で溜息をついた。

保坂先生って、つくづく頼まれたら断れない人なのだろうか?

いや、それは違う気がする。

むしろ、嫌なものは嫌と率直に言えちゃう人だろう。

でも――。


「麗華先生は土曜の診療をとても大事にしているので仕方がない」

「麗華先生の診察を希望してる患者さん、たくさんいますもんね」


その中には平日の受診が難しい人もいる。

だから麗華先生は土曜日も午前だけでなく午後もクリニックを開いているのだ。

そんな麗華先生を保坂先生が応援しないわけがない。

保坂先生はきっと、頑張っている人や困っている人を助けずにいられない人だから。


「それで保坂先生が代わって差し上げたんですね」

「院長命令だったので」


淡々と言う先生の横顔は、いつもの涼しげな保坂先生のようだった。

でも、ひょっとしたら――ちょっと照れているのかも?

なんとなくそんな気がして、心の中でくすりと笑う。


「だからネクタイだったんですね、先生」

「これも院長命令です」

「麗華先生が?」

「クリニックの名前を背負って行くんだからキレイな格好していくようにと」

「なるほど……それで今日はいつもと――」

「いつもと、なんですか?」

「えっ」