“3月”というのは、完全に私の問題というか、都合というか……わがまま、みたいな。

彼が打ち明けてくれた「叶うなら今すぐにでも」という気持ちは、とてもとても嬉しかった。

私だって「彼しかいない」と思う気持ちは本当だもの。

それでも、やっぱり少し時間が欲しい――。

相手を見定めるためのそれではなく、自分が覚悟をもつための時間を。

いわば、心の準備期間のような?

結婚に必要なのは“勢い”という話もある。

自信がつくまでなんていっていたら、そんなのいつまでたっても来やしないんだから、なんて。

それもわからなくはない。

けれども、それでもやっぱり、私には気持ちを整える時間が必要なのだと思う。

本当、とてもわがままで、贅沢だけれど。

大切な想いを大事にだいじに育てながら、必ずやって来る春を待ってみたい、と。

それに――。

彼が言ってくれたように、私も彼には同じようにじっくり考えて私を選んで欲しい。

決して自分に絶対的な自信があるわけじゃあないけれど……。

それでも、そんなふうに少しずつ手堅く(?)やっていくのが、私たちらしい気もして。

慎重に検証と検討を重ねた結果“やはりお互いしかない”という結論が導き出されました、みたいな?

3月になったら――。

彼が妻問いして、私が呼応する。

最初から返事のわかったプロポーズ。

とても素敵な、穏やかな予定調和。

春は、必ずやってくる。

そして――。

「やっぱり、明日が月曜って勘違いとか!?」

「ないから。残念ながら事実だよ……」

さしあたって、確実に月曜の朝がやってくる……。

彼が駄々っ子を宥めるように、私の頭をよしよし撫でる。

「すまない、少しと言ったのに長くなってしまった」

「そんなそんな」

「本当、もう寝ないと」

「ですね」

彼が常夜灯を消し、ようやく夜の帳が下りる。

「秋彦さん」

「なんだろう?」

「……呼んでみただけです」

「そう?」

「そうですよ」

名前をよんだら、こたえてくれた。

ただそれだけのことが、なんだか無性に嬉しくて。

心の中で「きゃー!」だの「くぅー!」だの叫びながら、私はタオルケットにくるまった。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

穏やかな静けさと、癒しと、安らぎと。

優しい夜が、ふたりを心地よい眠りへと誘っていく。

(あ、ヨガマット……まあ、いっか)

明日の朝もきっと――。

彼のほうが早起きで。

朝ごはんはパンにしたから、緑茶じゃなくてコーヒーで。

彼はエプロン姿で、コーヒーを淹れていて。

エプロンはもちろん、なっちゃんかプレゼントしてくれたミルクティー色のやつで。

コーヒーには、私はミルクだけ。

彼はきっと、ミルクと、多めのハチミツと?

いつもと同じだけれど、やっぱり新しい朝がくる。

未来へとつづく1日が待っている――。






【おわり】