白衣とエプロン①恋は診療時間外に

“3月”というのは、完全に私の問題というか、都合というか……わがまま、みたいな。

彼が打ち明けてくれた「叶うなら今すぐにでも」という気持ちは、とてもとても嬉しかった。

私だって「彼しかいない」と思う気持ちは本当だもの。

それでも、やっぱり少し時間が欲しい――。

相手を見定めるためのそれではなく、自分が覚悟をもつための時間を。

いわば、心の準備期間のような?

結婚に必要なのは“勢い”という話もある。

自信がつくまでなんていっていたら、そんなのいつまでたっても来やしないんだから、なんて。

それもわからなくはない。

けれども、それでもやっぱり、私には気持ちを整える時間が必要なのだと思う。

本当、とてもわがままで、贅沢だけれど。

大切な想いを大事にだいじに育てながら、必ずやって来る春を待ってみたい、と。

それに――。

彼が言ってくれたように、私も彼には同じようにじっくり考えて私を選んで欲しい。

決して自分に絶対的な自信があるわけじゃあないけれど……。

それでも、そんなふうに少しずつ手堅く(?)やっていくのが、私たちらしい気もして。

慎重に検証と検討を重ねた結果“やはりお互いしかない”という結論が導き出されました、みたいな?

3月になったら――。

彼が妻問いして、私が呼応する。

最初から返事のわかったプロポーズ。

とても素敵な、穏やかな予定調和。

春は、必ずやってくる。

そして――。

「やっぱり、明日が月曜って勘違いとか!?」

「ないから。残念ながら事実だよ……」

さしあたって、確実に月曜の朝がやってくる……。

彼が駄々っ子を宥めるように、私の頭をよしよし撫でる。

「すまない、少しと言ったのに長くなってしまった」

「そんなそんな」

「本当、もう寝ないと」

「ですね」

彼が常夜灯を消し、ようやく夜の帳が下りる。

「秋彦さん」

「なんだろう?」

「……呼んでみただけです」

「そう?」

「そうですよ」

名前をよんだら、こたえてくれた。

ただそれだけのことが、なんだか無性に嬉しくて。

心の中で「きゃー!」だの「くぅー!」だの叫びながら、私はタオルケットにくるまった。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

穏やかな静けさと、癒しと、安らぎと。

優しい夜が、ふたりを心地よい眠りへと誘っていく。

(あ、ヨガマット……まあ、いっか)

明日の朝もきっと――。

彼のほうが早起きで。

朝ごはんはパンにしたから、緑茶じゃなくてコーヒーで。

彼はエプロン姿で、コーヒーを淹れていて。

エプロンはもちろん、なっちゃんかプレゼントしてくれたミルクティー色のやつで。

コーヒーには、私はミルクだけ。

彼はきっと、ミルクと、多めのハチミツと?

いつもと同じだけれど、やっぱり新しい朝がくる。

未来へとつづく1日が待っている――。






【おわり】