私はそういった事情に疎く、まったく何も知らなくて。

「とはいえ僕はまだ30代前半なんで、本気でご心配いただく必要はないはずなのだけど」

「30代後半だと?」

「一概には言えないけど、結婚相手として瑕疵がある奴認定か、遊び人認定か、いずれ烙印を押される感じはあるかな」

「ほえー」

「基本的に経済的な障壁はないはずだから。人柄に難があるに違いない、と」

「なるほど」

「そういう事情もあって、独り身の僕を不憫に思って、ご夫妻が世話を焼いてくれるわけ」

「そうなんですね……」

「院長先生にも奥さんにも、千佳さんの存在を言えないのが心苦しくはあるが、こればかりは仕方がないし。だからといって、お見合いをすすめらるのも正直きつい……」

「ええっ、お見合い!?」

まさかのパワーワードにさすがに驚く。

でも、彼はどこ吹く風というか。

「大丈夫。釣書を持ってくる前に丁重にお断りしているので」

「そんなに大丈夫とは思えませんが……」

もちろん彼を信じているし、私の気持ちは大丈夫だけれど。ただ、彼の状況を想像すると――。

「気苦労されてる秋彦さんには悪いですけど、なんだか漫画みたいですね」

「まったくね」

顔を見合わせ、思わずふたりで苦笑い、

(3月、か……)

なんだろう? うまく言えないけれど、じんわりあたたかな思いが私を鼓舞したような――。

「3月、いいですね」

「え?」

「ですから、その……“愛の挨拶”の件です」

私はちょっと怯みそうにながら言葉をつないだ。

「もちろん、秋彦さんさえよければ、ですけど……」

「そんな、いいに決まっているじゃない」

彼はぐっと私を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。

なにしろ横になっているので、ちょっと体勢が難しい?

でも、そんなぎこちなさも愛おしい。

「そうとなったら、たくさん練習しないと」

「3月なら、納得のいく演奏ができそうです?」

「頑張ります」

私は技術的なことなどわからないし気にしないけど、彼の気持ちの問題らしい。

「楽しみです。最高の誕生日プレゼントですよ」

「…………ええっ!?」

「何か?」

「だって、誕生日って? 3月?? 何日???」

「3月3日ですけど?」

「そうだったの? 聞いてないよ?」

「……言ってないもん?」

(まあ、聞かれなかったし?)

私は私で自分から主張もしなかったし。

「僕としたことが……しかし、3月で助かった。誕生日をいきなり素通りなんて……危ないあぶない」

ひやっとして、ほっとして、忙しく変わる彼の表情が、可愛くっておもしろい。

「“耳の日”ですよ。なんかいいでしょ?」

「いいね、なんか嬉しい」

「秋彦さんは“いい夫婦の日”ですね」

「知ってたの? 11月22日」

「まあそのへんは事務方なんで、たまたま知る機会があったというか」

「なるほど。“いい夫婦の日”もなかなかでしょ?」

「ええ、とっても」

11月11日で“ポッキーの日”でも、私たちは“いい夫婦”になれる気はするけれど。