眠りたくない名残惜しさと、眠らなければ朝が辛い現実と。

ベッドに入っても、彼は常夜灯をすぐには消さなかった。

「すまない、寝る前に少しだけ話をしてもいいだろうか?」

「もちろん」

私は快諾して、もそっと彼に近付づいた。

向かい合う格好で横になって、おでことおでこがくっつくまではいかないけど、かなりの至近距離。

「来年以降の仕事の話、なのだけど」

「はい」

「レイちゃん……麗華先生からも近々話しがあるだろうけど、君には前もって僕から共有させてもらえたらと」

そうして彼は、新たに開院するクリニックについていくつかのことを話してくれた。

当初は現在の場所をリフォームする予定だったが、近隣によい物件が確保できたので“移転”をすること。

来院者数の増加を見込める試算もあり、広い面積も得られたので、新しい機器等を導入して、設備を拡充する方向に転換したこと。

そして、もろもろを踏まえて開院時期を年度明けとして、延期を決定したこと。

「どうせならということで、日帰り手術にも力を入れた施設を目指すらしい」

「そうなんですね」

「当面の勤務に別段大きな影響はないかと。単純に異動が先へ延びたので、その発表もそれに合わせたタイミングになるくらい?」

「わかりました」

「僕は導入する機器の検討やら何やらで少し忙しくなりそうだが」

「大変そう……」

思わず眉を曇らせると、彼は私の頭をよしよし撫でて、ふんわり優しく微笑んだ。

「悪い話ではないんだよ。患者さんにとってもメリットは大きいし。僕としても、オペの回数が増えるのは正直嬉しいし」

「そうなんです?」

「やっぱり上手くなるには“経験”しかないから。数をこなして研鑽を積むのは必須というか」

「なるほど」

そういえば、以前に唐木さんに聞いたことがあったっけ。

カトレアに来る前、保阪先生はけっこうなハードワークをしていたとか。

設備の整った市中病院で、オペもそれなりの数をこなしていたらしい、と。

「そこで、異動の延期にともなってというのも少々おかしいが、君に折り入って相談があって」

「なんでしょう?」

「僕が君に“愛の挨拶”を披露する日程についてなのだが」

(えっ!?)