白衣とエプロン①恋は診療時間外に

そんなこんなで――。

彼は“ちゃんと優しく”してくれて、いつもどおり私を甘やかし倒してくれた。

ただ、いつもと決定的に違ったのは……。

「あぅー、明日が休みならいいのにぃぃ」

「それを言ってくれるな、僕の彼女よ」

“翌朝出勤”という現実が、心地よい気だるさにひっそり影を落とす。

「明日は仕事とか認めたくないです。てか、私は認めませんよ?」

いい年をした大人の女が、全裸でタオルケットにくるまって駄々をこねる図。

動けない、動きたくない。

何もできない、何もしたくない。

ただいつまでも、この幸福な余韻に浸っていたくて。

ぬくぬく、ふわふわ。

だらだら、うだうだ……。

「まあまあまあ。とりあえず、パジャマを着なさいな」

やんわりと駄々っ子を諭す彼は早々とパジャマを着て寝る支度は万全だ。

まったく、全裸の誰かとは大違い。

「……着ない、パジャマ」

正確には「今はまだ」だけど。

「こらこら……。じゃあ、パンツは履こうよ。自分で履ける人? それとも、履かせてあげた方がいい?」

「……自分で履きます」

「えらいえらい。はい、どうぞ」

「はい、どうも」

脱いだ(脱がされた?)パジャマに紛れていたパンツをひょいと手渡され、仕方なしにもそもそ履く。

「寝たまま履くんだ……」

「履ければいんですよ、履ければ」

横着にもほどがあるけど、気にしない。

「お茶は? 自分で飲める人?」

「飲めない人です」

図々しく寝ころんだまま即答する私に、彼は「だろうね」と苦笑い。

そうして、冷蔵庫から持ってきた無糖の紅茶を口に含むと、そのまま私に口づけた。

(美味しい……)

あたたかな唇の感触と、ゆるりと流し込まれる紅茶のひんやり感、淡く広がる爽やかな香り。

喉が潤って癒されたような、紅茶の冷たさにヒャッとしてようやく正気に戻ったような。

「どう? 動けそう?」

「はい……パジャマ、着ないとですね」

「そうだね」

のろのろと体を起こそうとする私の腕を彼が軽々引っぱり上げる。

「今夜は――」

「え?」

「すまなかったね」

彼は丁寧な手つきで私にパジャマを羽織らせた。

「ほら、明日は出勤なのに」

すまなそうに言いながら、次はこっちと促して袖を通させる。

「無理を言ってしまったかと……」

「無理だなんてこと、ないですよ、ぜんぜん」

彼への愛おしさで思わず頬が緩んでしまう。

「っていうか、嬉しかったですよ、すごく」

「そう言ってもらえると」

ほっと安心したように微笑んで、彼が丁寧にパジャマのボタンをとめていく。

(ああ、なんだかこういうのも、ちょっと……)

外されるのもドキドキするけど。

こんなふうに、ゆっくりボタンをとめていってもらうのも、ふわふわした気持ちになるみたい。