白衣とエプロン①恋は診療時間外に

とろけるような甘い空気に、いっそう胸が高鳴って、頬がみるみる熱くなる。

彼の手が上気した頬に触れ、その声が耳元でちょっと切なげに問いかける。 

「キス、しても?」

「……!」

思わず彼のパジャマをぎゅっとつかむ。

ドキドキして、ワクワクして、ソワソワして。

ココロが急に大忙しで、いっぱいいっぱい。

(私、いつもいつも……)

甘美な胸の高鳴りは、声を奪ってしまうから。

黙ったまま、精一杯こくりと大きく頷く私。

優しくされる事にも、ずいぶん慣れたはずなのに。

それでも、相変わらずはじまりは緊張してる。

それをまた、彼はすっかりお見通しなのだから。

「深呼吸でもしておく?」

半分冗談、半分本気?

彼の言葉を真に受けて、大きく吸って、大きく吐いて……。

「僕の彼女は緊張しいで、真面目で。そういうところ――」

近づく彼の柔らかな気配に、おずおずとためらいがちに顔を上げる。

「可愛すぎてどうしようもない」

ふわりと唇が重なって、募る想いが溶けあって甘い熱を帯びていく。

(私も、大好き……)

縋るようにこの身を寄せれば、呼応するように、肩を抱く手に力が入る。

深く深くキスを交わしながら、私の輪郭をなぞる彼の手のひら。

髪に、耳に、頬に、首に――その1つひとつを確かめるように、心地よい体温が触れていく。

肩に降りた手が滑らかに腕を撫でて、そろりと手首に到達する。

そうして、柔らかに手を取って、緩く指を絡めてから――彼は重ねた唇をゆっくりと離した。

(あぁ、やめちゃうんだ……)

思わずついた吐息は、ひどく甘ったるくて、欲しがりみたいで。

(私ってば……っ)

恥ずかしくて、恥ずかしくて、恥ずかしすぎて。

「可愛いね、千佳さんは」

「……っ」

くすりと笑う彼に、“めっそうもない!”とふるふる首を横に振る。

「頑なだなあ」

「……そんなことはないかと」

「可愛いよ、千佳さんは」

「変わり者ですよ、秋彦さんは」

「それこそ、そんなことはないかと」

彼は髪に優しいキスをして、切なそうに私に告げた。

「君の可愛さに気づく男が僕だけなら、どんなに心安いだろう」

(秋彦さん……)

「私は、秋彦さんさえ可愛いと思ってくれたらそれで……それだけで幸せって思ってますよ」

たとえ100の想いが束になっても、たった1人の意中の人には敵わない。

想い慕うその人が、同じように自分を望んでくれるという奇跡。

(やっぱり“ここ”が私の居場所だ)

ぎゅっと抱きつけば、心地よくて、安心で、それでいて――やっぱりすごくドキドキする。

「続きをしても?」

気持ちを察していても、彼はこうして確かめる。

それは、私の反応を見るのが好きというのもありそうだけど、もっと――。

(秋彦さんだって、真面目で慎重ですよね?)

「千佳さん?」

「電気、眼鏡…………ヨガマット」

出発前の確認よろしく列挙したけど。

(ヨガマットって……)

トンチンカンな照れ隠しにもほどがある……。

「あれって、クルクルって巻けばよいのだっけ?」

それをまた彼がまじめに受け取って、片付けようとしている件!

「そ、それはそのままで!お気になさらずっ」

「そう?」

「広げっぱなしになっているのが目に入っただけなので」

「君がずっとヨガマットのことを気にしているとかだと、僕はちょっと切ないのだが」

「ないですから!大丈夫なのでっ」

(この人はもう……)

私の彼は、聡明で、遊び心があって、優しくて。

そういうところ――。

(大好きで大好きでしかたがない)