白衣とエプロン①恋は診療時間外に

ふたりともめちゃめちゃ笑顔、なのだけど――。

(なんか怖い……)

私はやや緊張しながら、そのやりとりを見守った。

「いやはや、以前に保坂センセイの車から降りてくる清水さんをお見かけしたときも驚きましたけど。まさか今日こんなふうにおふたりに出くわすなんて」

「すごい偶然ですね」

「本当ですよー、まったく」

「姉の件では大変お世話になりまして。直接お礼をお伝えできていなくて失礼しました」

彼が折り目正しく頭を下げると、貴志先生は「ほほう」というか「おやまあ」というか、一瞬そんな表情をした(ように見えた)。

けれどもすぐにいつもの調子で愛想のよい笑顔をみせた。

「よしてくださいよー。ボクのほうこそスミマセン、返って気を遣っていただいて。お礼の白ワイン、美味しくいただきましたよ」

「こちらも直接お渡しするのが難しかったので、麗華先生にお願いしてお渡しいただいたしだいで。お口に合ったなら何よりです」

「ええ、それはもう。ところで、お姉さんはもうすっかり?」

「はい、おかげ様でもう。姉も医師なのですが、バリバリ働いています」

「それはよかった」

穏やかに、にこやかに、滑らかに、流れるように交わされるオトナの会話。

でも、どこか――。

(やっぱり、なんか怖い……)

うまく言えないけれど、表面上は友好的でも内実は互いに圧をかけあっているというか、けん制し合っているというか。

なんだかおかしな心理戦、みたいな?

けれども、膠着状態にはならなかった。

動いたのは貴志先生から。

「そうそう、いい機会なんで言っておきますけど――」

(貴志先生???)

何を言い出すやら見当がつかず、気持ち身構える。

「ボクがおふたりのことを触れ回るようなことはないのでご心配なく」

(えっ)

「どこかの坊ちゃんセンセイみたいに何でもかんでもスタッフに言いふらすようなお喋りじゃないんでね」

(あー、桑野先生のことかぁ。って、それは今はどうでもよくて!)

貴志先生が私と保坂先生の関係を暴露することはないだろうと、なんとなく思ってはいた。

でも、こんなふうに面と向かって宣言(?)されるだなんて思ってもみなくて。

(秋彦さん???)

彼は何を思った? 何を、思ってる???

「もちろん、貴志先生はそんなことなさらないでしょう。他人のプライバシーをいたずらに弄ぶなんて」

「おや、案外ボクって保阪センセイに良い人だと思われているのかな?」

ニヤリと意味深な笑みを浮かべる貴志先生に、彼は真っ直ぐに言った。

「正直、そうして黙認していただけるのは助かります。是が非でも隠し通そうというわけではないが、できればあまり知られたくないと考えているのて。然るべきときまでは」

「然るべきとき、ですか」

貴志先生の顔色が明らかに変わった。

「それって結婚するまでは、ということかな?」

「正式に婚約するまでは、です」

「なるほど。でも、よろしいのですか?」

「何がでしょう?」

「職場恋愛が発覚した場合の面倒さは想像に難くありませんが。けど、自分のものだと宣言してしまったほうが安全ということもあるのでは?」

「と、言いますと?」

「悪い虫が寄ってこないとも限らない」