私はやや緊張しながら話し始めた。
「夏……なっちゃんのこと、なんですけど」
「うん……」
「なっちゃんに頑張ってお兄さんでいて欲しとか、秋彦さんはそんなこと思っていないんですよね」
「そうだね。望んでいないよ、そんなことは」
「でしたら……あの、出すぎたことを言うようですけど……」
「大丈夫。聞かせて」
彼に優しく促されて、私は思い切って言った。
「“夏姉”と呼ぶわけにはいかないのでしょうか?」
彼は優しいから、優しすぎるから考えすぎてしまうのだと思う。
なっちゃんの気持ち、ご両親の気持ち。
確かにあった“夏兄”との思い出、“夏姉”との今とこれから。
「なんていうか、それだけでもう秋彦さんの気持ちは伝わる氣がして……。なっちゃんにも、冬衛さんにも」
とにかく、なっちゃんには自分らしく、自分のために生きてほしい。
つまるところ、兄弟の願いはそれに尽きるのだろうから。
「僕は難しく考えすぎなのかな……」
「さあ、どうでしょう」
(たぶんそうなのでしょうけど)
「とりあえず、お風呂を上がったらメッセージを送ってみてはいかがです?」
「メッセージ?」
「はい。そうですねえ……退院して落ち着いたら四人で美味しいものを食べに行こう。“夏姉”と勝さんが都合のいい日連絡して、とか?」
「なるほど」
「そんなに悩まなくても大丈夫な気がしますけどね。たぶん、ずっと前から夏姉って呼んでいたみたいになるんじゃないですか、自然と」
私がしれーっと言ってのけると、彼はあらためて私をきゅうっと抱きすくめた。
「君がいてくれてよかった」
「こちらこそですよ」
本当、いつも支えてもらって、助けられて、救われて。
こんな私だけど、自分も彼の安全基地になれたらいいなって。
密かな野望だったそれは、今は――叶えたい夢になって、達成したい目標になっている。
「千佳さん」
「なんでしょう?」
「君のこと、思い切り甘やかしたいのだけど」
「いつも甘やかされていますよ」
そうそう、いつだってずっと、今だって。
「甘やかし倒したい」
(倒したいも何も……)
「私、そろそろ上がらないとのぼせて倒れちゃいますよ」
「そうなの?」
「そうですよ。倒れるというか、溺れるというか」
いろんな意味でのぼせそう。
とろけるような甘さに溺れて、我を忘れてしまいそう。
「なので、お先に出ますね」
「残念だけど仕方がないか。僕も少ししたら出るよ。お湯は落としていくから大丈夫」
「お願いします」
ふたりともお風呂を上がって、ちょうど私が髪を乾かし終えた頃、彼がいそいそとスマホを持ってやってきた。
「送ったよ、メッセージ」
「そうなんです?」
なんとまあ仕事が早い。
彼は嬉しそうにスマホのメッセージのやりとりを見せてくれたのだけど――。
「秋彦さん、私が例えばで言った内容そのまま送ったんですね……」
「えーと……うん、はい」
わざと呆れたように苦笑する私に、決まり悪そうに微笑む彼の可愛いこと。
「それより、ほらこれ見てよ」
「え?」
「“音速で退院して連絡するから!”だって……“夏姉”が」
「音速ですか」
「おそらく検査が終わればお咎めなしですぐ退院だとは思うのだけど」
「なっちゃん、よほど嬉しかったんですね。“アキ君”からのメッセージが」
「“チーちゃん”のおかげ、だよ」
顔を見合わせ、くすくす笑う。
「僕、“甘やかしたい”なんて言ったけど――」
「え?」
「甘やかされてるのは僕のほうだな、と」
ちょっと情けなさそうに微笑む彼が愛おしくて仕方がない。
ふんわり抱きしめられて、私は応えるように彼の背中に手をまわした。
「甘やかしたり甘やかされたり、ですかね」
(彼の安全基地に少しはなれているのかな?)
私は心地よい彼の腕の中で、想いが溶け合う幸せを噛みしめた。
「夏……なっちゃんのこと、なんですけど」
「うん……」
「なっちゃんに頑張ってお兄さんでいて欲しとか、秋彦さんはそんなこと思っていないんですよね」
「そうだね。望んでいないよ、そんなことは」
「でしたら……あの、出すぎたことを言うようですけど……」
「大丈夫。聞かせて」
彼に優しく促されて、私は思い切って言った。
「“夏姉”と呼ぶわけにはいかないのでしょうか?」
彼は優しいから、優しすぎるから考えすぎてしまうのだと思う。
なっちゃんの気持ち、ご両親の気持ち。
確かにあった“夏兄”との思い出、“夏姉”との今とこれから。
「なんていうか、それだけでもう秋彦さんの気持ちは伝わる氣がして……。なっちゃんにも、冬衛さんにも」
とにかく、なっちゃんには自分らしく、自分のために生きてほしい。
つまるところ、兄弟の願いはそれに尽きるのだろうから。
「僕は難しく考えすぎなのかな……」
「さあ、どうでしょう」
(たぶんそうなのでしょうけど)
「とりあえず、お風呂を上がったらメッセージを送ってみてはいかがです?」
「メッセージ?」
「はい。そうですねえ……退院して落ち着いたら四人で美味しいものを食べに行こう。“夏姉”と勝さんが都合のいい日連絡して、とか?」
「なるほど」
「そんなに悩まなくても大丈夫な気がしますけどね。たぶん、ずっと前から夏姉って呼んでいたみたいになるんじゃないですか、自然と」
私がしれーっと言ってのけると、彼はあらためて私をきゅうっと抱きすくめた。
「君がいてくれてよかった」
「こちらこそですよ」
本当、いつも支えてもらって、助けられて、救われて。
こんな私だけど、自分も彼の安全基地になれたらいいなって。
密かな野望だったそれは、今は――叶えたい夢になって、達成したい目標になっている。
「千佳さん」
「なんでしょう?」
「君のこと、思い切り甘やかしたいのだけど」
「いつも甘やかされていますよ」
そうそう、いつだってずっと、今だって。
「甘やかし倒したい」
(倒したいも何も……)
「私、そろそろ上がらないとのぼせて倒れちゃいますよ」
「そうなの?」
「そうですよ。倒れるというか、溺れるというか」
いろんな意味でのぼせそう。
とろけるような甘さに溺れて、我を忘れてしまいそう。
「なので、お先に出ますね」
「残念だけど仕方がないか。僕も少ししたら出るよ。お湯は落としていくから大丈夫」
「お願いします」
ふたりともお風呂を上がって、ちょうど私が髪を乾かし終えた頃、彼がいそいそとスマホを持ってやってきた。
「送ったよ、メッセージ」
「そうなんです?」
なんとまあ仕事が早い。
彼は嬉しそうにスマホのメッセージのやりとりを見せてくれたのだけど――。
「秋彦さん、私が例えばで言った内容そのまま送ったんですね……」
「えーと……うん、はい」
わざと呆れたように苦笑する私に、決まり悪そうに微笑む彼の可愛いこと。
「それより、ほらこれ見てよ」
「え?」
「“音速で退院して連絡するから!”だって……“夏姉”が」
「音速ですか」
「おそらく検査が終わればお咎めなしですぐ退院だとは思うのだけど」
「なっちゃん、よほど嬉しかったんですね。“アキ君”からのメッセージが」
「“チーちゃん”のおかげ、だよ」
顔を見合わせ、くすくす笑う。
「僕、“甘やかしたい”なんて言ったけど――」
「え?」
「甘やかされてるのは僕のほうだな、と」
ちょっと情けなさそうに微笑む彼が愛おしくて仕方がない。
ふんわり抱きしめられて、私は応えるように彼の背中に手をまわした。
「甘やかしたり甘やかされたり、ですかね」
(彼の安全基地に少しはなれているのかな?)
私は心地よい彼の腕の中で、想いが溶け合う幸せを噛みしめた。



