ゆるふわの冬衛さんはどこへ?
そこには鉄壁の冷静さをもつ冬衛さんがいた。
「父さんと母さんの様子、秋兄も見ていたよね? あの人たち、なんて言ってた?」
「それは……“生きててくれてよかった”って、“元気で生きてさえいてくれたら、もうそれだけで”って」
「それから? それから何て言ってたんだっけ?」
「それから……」
「一緒に見ていたよね? 思い出せないの?」
「それから……“認めてあげられなくてごめん”って」
「それだけじゃないよね?」
「“受け入れてあげられなくてごめんね”、と……」
そこまで言わせると、冬衛さんは大きなため息をついた。
「秋兄はとりあえず一件落着でよかったと思っているんだよね? 父さん母さんに“娘でもいいよ”って言わせたようなもんだから。けどさ、ぼくはモヤモヤしたよ。だってそもそも、認めるとか受け入れるとか、そういう話じゃないじゃん。おかしいよ。そんなのおかしいじゃんかよ」
「それはっ……」
「頑張って認めてもらわなきゃならないこと? 許しを請わなきゃならないことなの? ちっともわかっちゃいないんだよ、あの人たちは」
「そんなこと言ったって……現実、父さんや母さんの気持ちだってあるじゃないか」
「秋兄はあっちの味方だろうからね。夏姉の生きづらさに気づきもしなかったわけだから」
決定的な一言、だと思った。
夏生さんはお姉さんで、勝さんはお姉さんの彼氏さん、それが冬衛さんの当たり前。
でも、秋彦さんは……。
夏生さんを「夏姉」と呼ぶこともできなくて、勝さんを“恋人さん”と呼ぶしかなくて。
「あのさ、秋兄はいつまで夏姉のことを縛り続けるの?」
「そんな、僕は縛ってなんて……」
「保坂夏生はずっと姉ちゃんだったんだよ。秋兄は気づかなかったかもしんないけど、ずっと姉ちゃんだった。何が現実かって、それが現実だよ。夏姉に“夏兄”をおしつけようとすんな」
冬衛さんは淀みなく一気に言い放ち、秋彦さんは返す言葉がないように押し黙った。
「もう!ふたりともケンカしないで!フーちゃんも!アキ君も!」
弟ふたりが、姉ちゃんにびしっと叱られる、の図。
「フーちゃん、怒ってくれてありがとね。でももう、そのくらいに。ね? あと、“あの人たち”なんて言い方はだめ、よしなさい。アキ君も、お父さんやお母さんのこと、心配してくれてありがとうね。私の一番近くにいて、勝さんとのことにも協力してくれて感謝してるんだから。だからもう、ふたりがケンカすることなんてないの。ケンカはやめてちょうだい。ね?」
「でもっ、夏姉!」
「僕はっ」
「“わたしのために~、あらそわないで~”……なんちゃって?」
夏生さんの調子っぱずれの歌に、麗華先生と勝さんがくつくつと笑う。
「もう、なっちゃんは」
「ナツはいつまでたっても仲裁役を卒業させてもらえないわけね、お気の毒様」
緊迫した空気が、少しずつ和んでいく気がした。
皆が互いを大事に思い合っているのは本当のこと。
だけど、ちょっと不器用だったり、なぜだか素直になれなかったり。
きっと時間が解決することもあるのだろうけど、その時間にどうしても苛立ってしまったり。
「さーて、ナツの元気な顔も見られたし、そろそろ失礼するわ。フユは私が送るから。おじさまとおばさま、待ってらっしゃるわよー」
「嫌だよ。年寄りの世話なんて……」
「フーちゃん!」
「……はーい」
「アキ君とチーちゃんも、今日はありがとうね。落ち着いたらまたあらためて」
やわらかに微笑む夏生さんと、そんな彼女を優しく見守る勝さん。
ふたりのふんわりとした温かさに見送られて、私たちは病院をあとにした。
弟ふたりはちゃんとした仲直りがなんとなーくできないまま……。
冬衛さんは麗華先生に託され(?)、秋彦さんは私が引き取る(?)感じになった。
そこには鉄壁の冷静さをもつ冬衛さんがいた。
「父さんと母さんの様子、秋兄も見ていたよね? あの人たち、なんて言ってた?」
「それは……“生きててくれてよかった”って、“元気で生きてさえいてくれたら、もうそれだけで”って」
「それから? それから何て言ってたんだっけ?」
「それから……」
「一緒に見ていたよね? 思い出せないの?」
「それから……“認めてあげられなくてごめん”って」
「それだけじゃないよね?」
「“受け入れてあげられなくてごめんね”、と……」
そこまで言わせると、冬衛さんは大きなため息をついた。
「秋兄はとりあえず一件落着でよかったと思っているんだよね? 父さん母さんに“娘でもいいよ”って言わせたようなもんだから。けどさ、ぼくはモヤモヤしたよ。だってそもそも、認めるとか受け入れるとか、そういう話じゃないじゃん。おかしいよ。そんなのおかしいじゃんかよ」
「それはっ……」
「頑張って認めてもらわなきゃならないこと? 許しを請わなきゃならないことなの? ちっともわかっちゃいないんだよ、あの人たちは」
「そんなこと言ったって……現実、父さんや母さんの気持ちだってあるじゃないか」
「秋兄はあっちの味方だろうからね。夏姉の生きづらさに気づきもしなかったわけだから」
決定的な一言、だと思った。
夏生さんはお姉さんで、勝さんはお姉さんの彼氏さん、それが冬衛さんの当たり前。
でも、秋彦さんは……。
夏生さんを「夏姉」と呼ぶこともできなくて、勝さんを“恋人さん”と呼ぶしかなくて。
「あのさ、秋兄はいつまで夏姉のことを縛り続けるの?」
「そんな、僕は縛ってなんて……」
「保坂夏生はずっと姉ちゃんだったんだよ。秋兄は気づかなかったかもしんないけど、ずっと姉ちゃんだった。何が現実かって、それが現実だよ。夏姉に“夏兄”をおしつけようとすんな」
冬衛さんは淀みなく一気に言い放ち、秋彦さんは返す言葉がないように押し黙った。
「もう!ふたりともケンカしないで!フーちゃんも!アキ君も!」
弟ふたりが、姉ちゃんにびしっと叱られる、の図。
「フーちゃん、怒ってくれてありがとね。でももう、そのくらいに。ね? あと、“あの人たち”なんて言い方はだめ、よしなさい。アキ君も、お父さんやお母さんのこと、心配してくれてありがとうね。私の一番近くにいて、勝さんとのことにも協力してくれて感謝してるんだから。だからもう、ふたりがケンカすることなんてないの。ケンカはやめてちょうだい。ね?」
「でもっ、夏姉!」
「僕はっ」
「“わたしのために~、あらそわないで~”……なんちゃって?」
夏生さんの調子っぱずれの歌に、麗華先生と勝さんがくつくつと笑う。
「もう、なっちゃんは」
「ナツはいつまでたっても仲裁役を卒業させてもらえないわけね、お気の毒様」
緊迫した空気が、少しずつ和んでいく気がした。
皆が互いを大事に思い合っているのは本当のこと。
だけど、ちょっと不器用だったり、なぜだか素直になれなかったり。
きっと時間が解決することもあるのだろうけど、その時間にどうしても苛立ってしまったり。
「さーて、ナツの元気な顔も見られたし、そろそろ失礼するわ。フユは私が送るから。おじさまとおばさま、待ってらっしゃるわよー」
「嫌だよ。年寄りの世話なんて……」
「フーちゃん!」
「……はーい」
「アキ君とチーちゃんも、今日はありがとうね。落ち着いたらまたあらためて」
やわらかに微笑む夏生さんと、そんな彼女を優しく見守る勝さん。
ふたりのふんわりとした温かさに見送られて、私たちは病院をあとにした。
弟ふたりはちゃんとした仲直りがなんとなーくできないまま……。
冬衛さんは麗華先生に託され(?)、秋彦さんは私が引き取る(?)感じになった。



