目を伏せたその表情はどこか弱々しく儚げで、私の胸はきゅうっと痛んだ。
けれども同時に、彼の繊細な優しさがたまらなく愛おしく思えた。
「秋彦さんのそういうところが大好きですよ」
「そういう、とは???」
「そうですねぇ……思慮深いところ、とか?」
あらためて言語化しようとすると難しい件……。
「思慮深いだなんて買いかぶりすぎだよ」
「買いかぶりなんかじゃないです、絶対に」
むきになる私を、彼はひどく大事そうに見つめた。
「思慮深いのは君のほう」
「へ?」
「君だから話すことができた。僕の大切な家族の、大切なこと」
彼はそう言いながら、ちょっと甘えるように私の肩にもたれかかった。
「僕の彼女はほら、賢くて優しくて、おまけに可愛くておもしろいから」
たぶん、彼は照れていたのだろう。
それでも伝えようとしてくれたその気持ちが、愛くるしくて、尊くて。
感激と嬉しさと気恥ずかしさで、私のほうが照れてしまった。
「千佳さん」
「な、なんでしょう?」
「僕」
「はい」
「お腹と背中がくっつきそう」
(ああもう、本当にこの人は……)
「くっついたら剥がしてあげますよ。べりべりと」
「何その怖い話……。ていうか、ご飯が食べたいです。お願いします」
「ちょっ……それじゃあまるで、私がご飯あげない悪い人みたいじゃないですか」
「ご飯あげるって、グレみたいだな……」
(自分だって、いつぞやそんなふうに言って朝ごはんを食べさせてくれましたよね?)
「まったくもう。いいから、早くご飯にしましょう。お腹と背中がくっつくまえに」
そうして私は元気よく立ち上がると、お腹がペコペコで電池が切れかかっている彼の腕を引っ張りあげた。
「あの、今さらな質問なんですけど」
「なんだろう?」
「おうちにずっとあるあの素敵なエプロンって夏生さんの――?」
「ああ、そうそう。夏兄がそのまま置いていったやつ。仮置きの荷物を搬入したときに使ってそのまま」
謎はすべて解けた、といったところか。
「けど、どうして? あのエプロンが何か???」
不思議そうに首を傾げる彼がおかしくて、思わずくすりと笑ってしまう。
「そんなん気にならないわけなくないですか!?」と問いたくもあり。
けれどもやっぱり「まあいっかぁ」とあらためて盛大に脱力しちゃうという。
「いえいえ、なーんにも。ただ聞いてみただけですよー」
「え??? ちょっと、気になるじゃない」
「さあさあ、ご飯ごはん」
食事をしながら、私たちはあらためて今日の出来事などを話した。
「そういえば、千佳さんも僕に話があるとかって」
「あー、そういえば」
“保坂先生”が美人さんとずいぶん親しげな様子で歩いていた件。
でも、これってたぶん――。
「秋彦さん、非常勤の日とかに夏生さんと会われたりとかしてました?」
「先週ちょっと時間をとって夏兄と話したよ。部屋の荷物のこととか、今後のこととか。ああ、あとはつい昨日。昼休憩で外へ出たときにばったり」
(やっぱりだ)
美人さんの正体は、私が思ったとおりらしい。
「実は夏兄と勝さん、最近あの界隈に越してきたんだよ。新しい家のほうも落ち着いてきたから、荷物の回収のめどもたったという話で――って、あれ? どうして???」
「目撃情報があったんですよ。しかも2件も」
私は今日のクリニックでの盛り上がりと、貴志先生とのやりとりについて話した。
「まいったな。貴志先生、相当本気みたいだね、君のこと」
「正しくは、本気でおもしろがっている、ですよ」
「僕の彼女はとても魅力的だから気が気でないよ」
「それこそ買いかぶりすぎ。彼氏の欲目というやつです」
「そんなことはないさ。悔しいけど流石だなって思うよ、貴志先生。君の魅力に気づくなんてさ。本当、しゃくだけど」
「でーすーかーらー」
「明日、夏兄に紹介するのが楽しみだよ、君のこと」
(あ、話そらした? ま、いいけど)
「レイちゃんも言っていたけど、君と夏兄、けっこう気が合いそうな気がするからさ」
「私も楽しみです。ちょっと、緊張しますけど……」
「大丈夫だよ」
彼が言うのなら大丈夫に違いない。
そう、きっときっと大丈夫。
心が大忙しの一日が、穏やかな夜にたおやかに溶けていった。
けれども同時に、彼の繊細な優しさがたまらなく愛おしく思えた。
「秋彦さんのそういうところが大好きですよ」
「そういう、とは???」
「そうですねぇ……思慮深いところ、とか?」
あらためて言語化しようとすると難しい件……。
「思慮深いだなんて買いかぶりすぎだよ」
「買いかぶりなんかじゃないです、絶対に」
むきになる私を、彼はひどく大事そうに見つめた。
「思慮深いのは君のほう」
「へ?」
「君だから話すことができた。僕の大切な家族の、大切なこと」
彼はそう言いながら、ちょっと甘えるように私の肩にもたれかかった。
「僕の彼女はほら、賢くて優しくて、おまけに可愛くておもしろいから」
たぶん、彼は照れていたのだろう。
それでも伝えようとしてくれたその気持ちが、愛くるしくて、尊くて。
感激と嬉しさと気恥ずかしさで、私のほうが照れてしまった。
「千佳さん」
「な、なんでしょう?」
「僕」
「はい」
「お腹と背中がくっつきそう」
(ああもう、本当にこの人は……)
「くっついたら剥がしてあげますよ。べりべりと」
「何その怖い話……。ていうか、ご飯が食べたいです。お願いします」
「ちょっ……それじゃあまるで、私がご飯あげない悪い人みたいじゃないですか」
「ご飯あげるって、グレみたいだな……」
(自分だって、いつぞやそんなふうに言って朝ごはんを食べさせてくれましたよね?)
「まったくもう。いいから、早くご飯にしましょう。お腹と背中がくっつくまえに」
そうして私は元気よく立ち上がると、お腹がペコペコで電池が切れかかっている彼の腕を引っ張りあげた。
「あの、今さらな質問なんですけど」
「なんだろう?」
「おうちにずっとあるあの素敵なエプロンって夏生さんの――?」
「ああ、そうそう。夏兄がそのまま置いていったやつ。仮置きの荷物を搬入したときに使ってそのまま」
謎はすべて解けた、といったところか。
「けど、どうして? あのエプロンが何か???」
不思議そうに首を傾げる彼がおかしくて、思わずくすりと笑ってしまう。
「そんなん気にならないわけなくないですか!?」と問いたくもあり。
けれどもやっぱり「まあいっかぁ」とあらためて盛大に脱力しちゃうという。
「いえいえ、なーんにも。ただ聞いてみただけですよー」
「え??? ちょっと、気になるじゃない」
「さあさあ、ご飯ごはん」
食事をしながら、私たちはあらためて今日の出来事などを話した。
「そういえば、千佳さんも僕に話があるとかって」
「あー、そういえば」
“保坂先生”が美人さんとずいぶん親しげな様子で歩いていた件。
でも、これってたぶん――。
「秋彦さん、非常勤の日とかに夏生さんと会われたりとかしてました?」
「先週ちょっと時間をとって夏兄と話したよ。部屋の荷物のこととか、今後のこととか。ああ、あとはつい昨日。昼休憩で外へ出たときにばったり」
(やっぱりだ)
美人さんの正体は、私が思ったとおりらしい。
「実は夏兄と勝さん、最近あの界隈に越してきたんだよ。新しい家のほうも落ち着いてきたから、荷物の回収のめどもたったという話で――って、あれ? どうして???」
「目撃情報があったんですよ。しかも2件も」
私は今日のクリニックでの盛り上がりと、貴志先生とのやりとりについて話した。
「まいったな。貴志先生、相当本気みたいだね、君のこと」
「正しくは、本気でおもしろがっている、ですよ」
「僕の彼女はとても魅力的だから気が気でないよ」
「それこそ買いかぶりすぎ。彼氏の欲目というやつです」
「そんなことはないさ。悔しいけど流石だなって思うよ、貴志先生。君の魅力に気づくなんてさ。本当、しゃくだけど」
「でーすーかーらー」
「明日、夏兄に紹介するのが楽しみだよ、君のこと」
(あ、話そらした? ま、いいけど)
「レイちゃんも言っていたけど、君と夏兄、けっこう気が合いそうな気がするからさ」
「私も楽しみです。ちょっと、緊張しますけど……」
「大丈夫だよ」
彼が言うのなら大丈夫に違いない。
そう、きっときっと大丈夫。
心が大忙しの一日が、穏やかな夜にたおやかに溶けていった。



