違うんです、と言おうとした瞬間背中にかかっていた重みがなくなり、温かな体温も離れていく。
「櫻井。蒼井がシュークリームを買ってきたんだ。一緒に食べるだろ?」
何食わぬ顔でそう言い放ち、部屋の前で桜井さんと立ち話。
私はその時感じた自分の感情に戸惑って動けないでいた。
……おかしい。なんで寂しいなんて思うんだろう。
もう少し、あのままでいたかったなんて――。
「蒼井さま。少し宜しいですか」
「……はい?」
侑李は自室に戻ったのか、もうそこには居ない。
床に座ったまま斜め上の櫻井さんの顔を見上げ、血の気が引いた。
お、怒ってる……もの凄ーく、怒ってらっしゃる。
笑顔なのに目が笑っていない。
彼の周りに、どす黒いオーラのようなものが見える気がした。
「蒼井さまは、侑李さまに雇われた使用人ですよね?自分の立場と言うものを――」
始まった……。こうなってしまえば、終わるまで待つしかない。

