人間嫌いの小説家の嘘と本当


何も返事せずにいると、カチャとドアが開いて彼が部屋に入ってくる気配。
そして私の体をふわっと温かいものが包み込んだ。



「震えてる。ごめん、悪ふざけしすぎた……怖かった、よな?」



侑李らしくない、優しい声音。
普段、私よりも低い体温が今は温かいと感じる。

いつもは憎まれ口ばかり言っているのに、こんなに優しい侑李はなんか変だ。
そんな彼に感化されたのか、素直な気持ちが口から零れ落ちた。



「怖かっ……侑李が死んでしまうと、思った――」



治まりかけていた震えが、言葉にしてまた声に現れる。
思わず私を抱きしめる彼の腕を握り返し、侑李の無事を確かめた。



「お前、俺が死ぬって思ったのか?自分が襲われて、怖かったんじゃなく?」



小さく頷くと、驚いたのか一瞬息を飲むのが聞えた。
怖くなかったと言えば嘘になる。
でもそれ以上に、侑李が傷付くのは嫌だ。

この気持ちが、守りたいという責任感からなのか、それとも別の何か淡い気持ちなのか、今はまだわからない。
だけど後悔をするくらいなら、自分自身が傷ついた方がマシだ。