だからこそ読者も物語に引き込まれ、その世界に浸れるのだ。
人との関わりを極力避ける彼が、どうやってそんな感情や状況を書くのか。
きっと机上の空論だけでは、成り立ちはしないだろう。
もしかしたら、今までにも櫻井さんや有栖川さんに協力してもらって、実験をしていたのかもしれない。
今回の事も、侑李にとっては何でもないことなんだ。
私が気にすることなんて、何一つない――。
そう自分に言い聞かせるのに、自然と体が震えてくる。
暗闇の中、襲ってくる人物。
自分の判断の甘さで、侑李を失うことになったら……。
もし今回の事が現実に起きて、目の前に血まみれの惨状が広がっていたなら、そう考えただけで震えが止まらない。
両手で自分を抱きしめ、その場に蹲った。
どれくらい、そうしていたのか。
一時間くらい経ったような気もするけど、実際は五分とか十分くらいだろう。
控えめにドアがノックされ侑李の声が聞えた。
『蒼井?』
いつもの彼なら私が返事を返さなくても、ずかずかと部屋の中に入ってくるのに、今日に限ってなんでノックしてくるの?

