「おい、蒼井?」
彼なりに思うところがあったのか、私を呼び留めようとする。
けれど今の私には、彼を構ってあげるほど余裕はなかった。
普段なら、もっと言い返していただろう。
小説の為なら仕方ないとか、バカやらないでよとか彼の背中を叩いて、笑って済ませていたかもしれない。
だけど、今回のは性質が悪すぎる。
どんなに心配したか。心臓が掴まれたみたいに、苦しかったのに――。
足早に自室に戻り、部屋の中を二~三歩歩いたところで座り込んでしまった。
「侑李のバカ」
心配して損した。
分かってる……いや、正確には分かっているつもりでいた。
彼の職業は小説家だ。
二十四時間、誰かに狙われているのは変わらない。
だけど、それに甘んじることなく彼は物語に対して貪欲だ。
小説に中の主人公や周りの感情が事細かに書かれ、まるで目の前で起こっているかのように書き上げる。

