人間嫌いの小説家の嘘と本当


「いいえ。久ぶりに一人で街に来れたので、有難いくらいです」

「……なんだか、いつもと違いますね」



心なしか頬を赤らめて俯きがちに話す有栖川さん。
もしかして張り切り過ぎて、服が似合ってないのかな?
ウキウキしていた気分が少し沈みかける。



「そうですか?」

「いつもに増して素敵です……ってこんなこと言ったら、先生に怒られてしまいますね」



なんで、ここで侑李が出てくるんだろう。
だいたい私が褒められて、侑李が怒ることなんて何ひとつ無いのに――。
でも良かったぁ。似合ってないのかと思ったけど、違ったみたい。



「あっ、僕戻らないと……蒼井さん。今日は本当に、ありがとうございました。先生にもよろしくお伝えください」



有栖川さんは、仕事の合間をぬって出てきたようで、時計の針を確認すると直ぐに戻ってしまった。

さぁてと、お使いは済んだし街の散策でもしよっかな。
有栖川さんから預かった資料を抱えて出版社を出ると、ショッピング街へと足を向けた。