本を読むのは好きだけれど、作成側に関しては全くの素人。
良く知らないけれど、一冊の本が出来上がるまでに何度も編集者と内容をすり合わせ、沢山の人の手と時間が掛かって、ようやく出来上がっているようだ。
「俺に渡したい資料があるらしいんだが、会議が急に入って出て来れないらしいんだ。次回作に必要なものだから直ぐにでも欲しい」
「だったら、侑李が行けばいいのに」
行けるはずがない、そう分かってはいるものの、ついつい心の中で思ったことが、口をついで出てしまう。
小説に使う資料も、櫻井さんや有栖川さんが用意することが多く、侑李自身が取材に行くことは滅多にないらしい。
「ほう……なら、お前が明日の締め切りのコラムを書いてくれるって言うんだな」
ワザとらしく「助かるなぁ」と言いながら、トントンと拳を肩に叩きつけたり、首を左右に振ってポキポキ音を鳴らしている。
「い、いってきま~す」
侑李の代わりなんて、出来るはずがない。
分かってる癖に、意地が悪いんだから。
だいたい侑李ってば、一体いくつ仕事を抱えているのよ。
ついこの間も徹夜して、短編の小説を書き上げたって言ってたのに――。

