人間嫌いの小説家の嘘と本当


「あぁ……そうか。分かった……じゃ、蒼井を行かせるから渡しといて」



電話をしながら、寝室から出てきたかと思うと、話しの中に私の名前が出てきて、嫌な予感がした。
私は彼の視界に入らないように、そっと廊下に出ようとドアに手を伸ばす。



「待て、蒼井」

「……なんでしょうか?」



嫌々ながら、ぎこちない動きで後ろを振り向いた。
すると腕組みをして、悪戯っ子のような嫌味な笑みを浮かべ、仁王立ちする侑李の姿が目に入る。



「今の話、聞いてたよな?」

「い、いいえ」



嘘じゃない。相手が誰かも分からないし、内容までは聞き取れていなかった。
ただ自分の名前がでて、取りに行かせるとか何とか言ってたのを聞いたくらいだ。



「そうか。なら、今からアリスのところへ行ってくれ」

「有栖川さんの所?」



昨日も改稿が出来たからと言って、わざわざ届けに来てくれたのに何か急用だろうか。