人間嫌いの小説家の嘘と本当


ドアを開けると侑李は机の上のパソコンに向かって、カタカタと忙しく指を動かしていた。



「遅い」



私の方には振り向きもせず、そう冷たく言い放つ侑李。
背中に目でもあるのかしら。



「悪かったわね。女には、いろいろあるのよ」

「その割りには、色気のない服を選んだな」



PC用の眼鏡なのか、レンズに淡い色が付いた眼鏡をクイッと中指で持ち上げ私を一瞥すると、再びPCへ向き直りキーボードを叩き始めた。

色気のないって、また失礼な。
秘書じゃあるまいし綺麗な服をきても仕方がない。
ボディーガードなんだから動きやすい黒のパンツスーツで十分でしょ。

ふん、と鼻を鳴らして「こんな感じかな」とTVドラマで見た、ボディーガードの立ち位置っぽく、彼から少し離れた場所に立って万が一に備える。



「ま、いいや。これからアリスが来るから、これ渡しといて」