人間嫌いの小説家の嘘と本当


欲求不満って何よ。デリカシーの欠片も無い、冷血男!!
第一あんたがキスマークなんかつけるから、いけないんじゃないの。
欲求不満って言うなら、侑李の方じゃない。
それとも何?キスマークは、挨拶か何かなの?
外国人でも、こんな事しないわよ。

ブツブツ文句を吐き出しながら、クローゼットを開けると鏡に映る自分の姿が目に入った。

髪をアップにしてしまえば見える、耳の少し後ろにある真新しい赤い痕。
首元に手を当て、溜息をひとつ。
この前のは消えてたのに、もう侑李のバカ。

それはそうと……キス、しちゃった――。
事故とはいえ首筋とはまた違う感触。
そっと自分の唇に指を当て、さっきの出来事をリフレインさせる。

案外、柔らかかったな……。
でも侑李には、何でもないことなんだよね。

胸の奥に感じるザワつきを、気のせいだと自分に言い聞かせて、手早く着替え隣に居る侑李の元へと急いだ。

私と侑李の部屋は隣同士で、ひとつの扉で繋がっている。
しかも廊下への出入口は、侑李の部屋側にしかない。
つまり私が部屋を出る時には、必ず侑李の部屋を通らなくてはいけないと言うこと。