人間嫌いの小説家の嘘と本当


顔半分お湯につけ、吐いた息がブクブクと音を立てて泡を作る。

あーもう、いくら考えても分からないや。
私にはもう失う物なんて何も無いんだし、どうにでもなれ。
涙で濡れた頬を洗い流す様に、顔にお湯を掛け頬をパンパンと叩いた。

正直なところ、真幸を許したり忘れるには、時間が掛かると思う。
けれど、このままウジウジしていても始まらない。

執事付きのお坊ちゃまに、訳の分からない約束。
考えなくちゃいけないことは、きっと山ほどある。
私は広いバスルームで、小一時間を掛けて心と体を洗い流し気持ちを切り替えた。



「ふぅ、さっぱりしたぁ」



ゆっくりお湯に浸かったお陰か、幾分か二日酔いも緩和されたようだ。

着替えが見当たらなかったので、真っ白なガウンを羽織りバスルームから出ると、居るはずの無い(と思っていた)人が、浅くベッドに腰掛け長い脚を組みながら待っていた。



「やっと出てきたか」



呆れたように深い溜息を一つ吐いて、私の方へ顔を向ける。