人間嫌いの小説家の嘘と本当


「誰かと待ち合わせ?」



店内に入っても、直ぐに席につくことなく店内を見渡していたから、誰かと待ち合わせをしているのかと勘違いしたみたいだ。



「あ、の……侑李、来てませんか?」



久しぶりに走った所為か息が切れ、言葉が途切れ途切れになる。
それに少し足首に痛みが出始めていた。



「侑李なら、ついさっき大人の綺麗な女性と出て行ったよ」



そう言うマスターは、私と侑李が恋人同士だと知らない。
だから悪気はないのだと分かってはいる。
分かってはいるけれど、何か引っかかる言い方だ。



「てっきり君と待ち合わせしてたんだと思ったんだけど、違ってたんだね」



グラスを拭きながら「どこかで見たことがあるんだけど……」と続けるマスターに若干イラッとしてしまう。
悪い人では無いって分かってる分、少し質が悪い。