人間嫌いの小説家の嘘と本当


あの日、侑李は月明りの中。
自分の身の危険も省みずに助けに来てくれた。

昼間ではなく、夜に来たのは彼の身を案じた櫻井さんの提案なのだという。
一刻も早く来たかった侑李を説得するのには、かなり骨が折れたようだ。

あの時不機嫌だったのは、その所為もあったのかもしれない。



「美味しい……」



櫻井さんは冷めてしまったというけれど、私にとってはちょうどいい温かさだ。
和らかな口当たりのミルクティーが、私の心を解きほぐすように沁みていく。



「あの方にとって、あなたは単なる使用人ではなく特別な存在なのです。もう少し自信を持っても良いと思いますよ」



キッチンから帰ってきた櫻井さんが「おかわり、どうです?」とポットを少し持ち上げ聞いてくれる。



「じゃ、どうして侑李は私を避けるの?」



侑李が私のことを大切に想ってくれていることは、今の櫻井さんの話で分かったけれど、未だに疑問が解決したわけじゃない。



「そんなこと知りませんよ。けれど、これだけは言えます。心を許した貴女を簡単に捨てる人ではありません。侑李様を信じて下さい」