私は侑李の方に手を置き、遠くなっていく彼の名前を聞いた。
自分でも、どうして彼の名前を聞こうと思ったのか分からない。
だけどきっと、記憶の中に“腹黒い執事さん”と言う名で覚えておきたく無かったのだと思う。
「……木崎、です」
一瞬、戸惑った顔を浮かべていたけれど、私たちが車に乗る手前で小声で名乗ってくれた。
木崎さん――。
いつか、彼も幸せに暮らせる日がくるといいな。
「バカか、お前は。今更アイツの名前を聞いてどうするんだよ」
倉庫を出て暫く走った頃、侑李が口を開く。
薄れゆく意識の中、私は隣で運転する侑李の姿をボーっと見ていた。
所々シャツは破れ白い肌からは血が滲んで、痛々しいくらいだ。
きっと見えていないところも、散々殴られ傷を負っているはず。
なのに痛いとも苦しいとも言わない。
私にくらいは甘えてくれてもいいのに――。
「別に……ただ、執事さんじゃ可哀想だったから――」