愛しのカレはV(ヴィジュアル)系

お手洗いに行くと、さゆみは洗面台の前で涙を拭ってた。



「さゆみ…大丈夫?
一体、どうしたの?」

「どうって…あんたも聞いたでしょ?
私達、リクに『友達』って言ってもらえたんだよ!?」

正確には「友達みたいなもの」だったけど…
そっか…さゆみはそのことが嬉しかったんだね…



「あんたは嬉しくないの?」

「え?、そ、そりゃあ嬉しいよ。」

あんな風に言われて、喜ばない子なんて、きっといない。
でも……さゆみはそれで良いのかな?
さゆみはリクさんのこと、本気で好きだって言ってた。
それは、当然『恋愛感情』ってことだよね?
それなのに、『友達』でも良いのかな?
『友達』って思われたら、彼女さんにはなりにくいんじゃないのかな?
それとも逆?彼女さんに近付くのかな?
まぁ、確かにただのファンから友達になれたのは、良いことだとは思うけど…なんだか、複雑でもあるよ。



「諦めなけりゃ夢は叶うって言うけど…本当だね。
諦めないだけじゃだめだと思うけど、その時にやれることを思いっきり頑張ったら、それは必ず夢に近付くんだね。
私……いま、そのことを実感してるよ。」

そうかもしれない。
そうだよね…先のことをあれこれ考えるより、きっと、今の幸せをストレートに喜ぶべきなんだね。

良いこと言ってるけど、さゆみ…
お化粧がほとんど取れてるよ。
鼻も真っ赤でかなり酷い状態だよ。




「さゆみ…とりあえず顔洗っちゃえば?」

「え?」

顔を上げて、鏡を見たさゆみは、大きく目を見開いた。



「なに、これ?ど、どうしよう?」

「お化粧道具は持って来てないよね?」

さゆみが頷く。



「でも、ファンデーションはあるから、それだけでも塗り直せば大丈夫だよ。」

私はコンパクトを手渡した。



「ありがとう。じゃあ、これ借りるね。
あ、あんたは先に戻ってて。」

「え?でも…」

「二人のこと、ほったらかしにするの申し訳ないし、心配かけたくないから。」

「そ、そう?わかったよ。」

さゆみがいないのはなんとなく心細いけど…さゆみの言うことももっともだ。
仕方なく私は部屋に戻った。