小児科病棟では、盲腸などの緊急の手術後の入院患者や、糖尿病などの慢性的な重い病気を抱える入院患者がいる。その患者の担当になって、日々の容態を記録し、担当医に伝えることも彼の仕事だった。主に、重い病気を抱える子どもではなく、緊急手術を終えた子どもの担当になることが多かったのだが、そこにいる子どもは比較的元気な子どもが多くかった。手術中なんらかのミスさえない限りは、手術後順調に回復していく子どもがほとんどだった。


 少女は窓側のベッドで、小説を読んでいた。小学生の彼女には少し難しそうな分厚い本である。ベッド周りのカーテンを閉めているのだが、相部屋の子どもの元気な声が響いてくる。家族とお話している子ども、担当の看護師とお話する子ども。少女は退院するのにまだ日にちがある。家族は先ほど様子を見に来て、仕事場へと向かった。小説はそのときに持ってきてくれたものだ。




「良子ちゃん。体温検査の時間だよー」




カーテンをさっと開けて入ってきたのは、記録表と体温計を持った皐月だった。少女は皐月の姿を見て、本を閉じて枕元に置いた。皐月は少女に体温計を渡し、丸イスに座って記録表にさらさらと何かを書き出した。少女は体温計を脇にはさんで、測定を始める。その様子を見て、皐月は尋ねた。




「朝ごはん食べれた?」




「はい」




「昨日は寝れた?」




「うーん……まあまあ」



「そっかあ……体がどこか痛いとかは?」




「ないです」




いくつか質問をして、その都度記録していく。少女の肌色や髪質などにも注目して、様子を書き込んでいた。




「看護師さんはいくつなんですか?」




いくつか必要な質問をし終わったときに、少女から尋ねられた。こういう質問をされたとき、のらりくらりとかわすような看護師もいるが、皐月は自分のプライベートを特に隠すような男でもない。