しかし、お互いに離れたくない気持ちと、大切に扱いたい気持ちとが、彼等の関係を支えていることもまた間違いなかったのである。




「俺、るりのこと好きだよ。ほんとだよ。今日ね、先生とるりの話してたら、先生に呆れられちゃったよ。多分それくらいるりのこと好きって気持ちが隠しきれてないんだとおも」




「おやすみ」




るりは目をつむり、寝返って、皐月に背中を見せる。その背中を黙って見つめ、皐月は少し微笑み、小さくおやすみと返す。るりが、先生もとい母親の話から逃げたことに、皐月はすぐに気付いた。皐月はそのままるりの背中を見つめる。手をのばせばすぐに届く距離であるのに、皐月は未だにるりに触れられないままでいる。


 彼は彼女のことが好きだ。愛してる。何があっても離すつもりはない。彼はお金と、住むところと、愛情が彼女の求めているものだと思っている。もちろんそれ以外にも大事なものはあるだろう。それもわかっている。彼女のことを愛している彼は、彼女に奉仕することが苦ではない。彼女なりに感謝してくれているし、何より彼女に必要とされていることに喜びを感じるからだ。彼はきっと承認欲求が人一倍強いのかもしれない。嘘をつかれて傷つかないわけじゃない。自分よりテレビに注目されて傷つかないわけじゃない。めんどくさそうにだらだらと受け答えしてほしいわけじゃない。ボディソープの匂いをさせて、気付かないわけがない。他の男とホテルで体を重ねていることに、精神的におかしくならないわけがない。そう。気付いてる。気付いているのだ、彼は。あるいは彼女があえて気付くようにしむけているのか。いや、彼女がそこまで器用に考えて行動できない性質であることは知っている。彼は自分でも自分がおかしくなっていることに気付いていた。そこまで器用に立ち回れない彼女にすら愛しさを感じてしまうのだから。作ったお弁当を毎日食べてくれることが、彼の精神の安定に繋がっているのかもしれない。しかしそのお弁当さえも……。彼が真実を知ったとき、彼はどうなってしまうのか。


 皐月はランプの明かりを消す。ランプはるりと一緒に選んで買ったものだ。るりの好みっぽい、独創的でアンティークなデザインだ。明かりが消えると、ベランダからの月明かりが二人を照らす。


 明日も早起きして、お弁当を作ろう。明日は準夜勤だからお部屋の掃除も少しするかな。