鋭い彼等のことだから

「ただいまー……」




るりが帰った。皐月はリビングでソファに座ったままおかえりと返す。るりは空の弁当箱をキッチンに出しておいた。そのまま自室へ向かい、皐月と顔を合わせることはない。皐月はキッチンへ移動する。お弁当を包んでるハンカチをはずし、中身が空であることを確認するとにぱっと笑った。そして弁当箱を洗い始める。


 テレビにはコントや漫才をする芸人の姿。るりはお笑い系のバラエティ番組が好きだ。皐月はそうでもなかったのだが、一緒に住むようになってからは皐月も見るようになった。るりも皐月の趣味に、特に何も言わず付き合っている。猫のように気まぐれでもしたたかでも、恋人としての優しさや愛情は与えてくれる。そんな彼女のことを皐月は本当に愛している。るりほど魅力的な女性はいないと思うほどに。


 るりが自室から戻ってきた。黒いロングTシャツで、下は下着だけ。ロングTシャツがちょうどよく隠してくれるので、なかなか色気がある。るりはソファに飛び込んで、だらだらしながらテレビを見始めた。ちょうどお気に入りの芸人の漫才が始まったみたいで、くすくす笑っている。弁当箱を洗い終えた皐月はソファに戻ってきた。るりが端のほうへ移動し、ひじ掛けに体をあずけて頬杖をついている。そんなるりの隣に座った。そのとき、るりから嗅いだことのないような匂いがただよってきた。家のボディソープとも違う、良い香り。清らかで少し花が混じったような匂いがする。




「るり……お風呂はいいの?」




「もう入ってきた」




テレビを見ながら平然と答える。




「……どこで?」




「お友達の家」




「……そうなんだ」




るりのお友達とやらを、皐月はもう何年も見たことがない。


 テレビを見進めて、そろそろ寝る時間になった。るりは寝室へ向かい、たたんでおいてある布団を敷きはじめた。るりが寝るなら俺も寝ると言わんばかりに、リビングのテレビと電気を消し、皐月も寝室に入った。るりは布団に寝転がり、ロングTシャツのポケットからスマートフォンを取り出した。少しいじった後、充電器につないで枕元に置く。そんなるりの隣で、皐月もたたんであった布団を敷いて、寝る準備を始めた。