鋭い彼等のことだから

その通りを、この時間に颯爽と歩く赤いワンピース姿の彼女の存在は異様だった。店の前の男達は、誰も彼女と目を合わせようとしない。閑散とした中で彼女の存在は非常に目立っていた。空気に染まることなく突き進んでいくその姿は、まさに野良猫だった。


 人気のない駐車場まで歩いたとき、彼女は一人の中年男性が自分に近づいてきてることに気付いた。




「ありがとう青姫ちゃん。来てくれたんだね。嬉しいよ」




小太りでラフな格好をした、自分よりも背が十センチほど低い中年男性に、彼女は柔らかく微笑んだ。




「こちらこそ、ですよ」




ここでは、青姫と呼ばれていた。なぜそう呼ばれるのかは本人にもよくわかってない。だが、ここに通うようになってから、そのように呼ばれることが多くなっていた。中央街で彼女の存在を知るものは、彼女の正体を知らない。しかし中央街で働く男女は、彼女に深く関わってはいけないことはよく知っていた。


 男は、青姫の手を大事そうに握り、手の甲を撫でた。




「本当にいいの?彼氏は?」




「……いませんよ」




「そうなの?でもモテるでしょ?青姫ちゃんかわいいし」




「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」




「いやいやお世辞でこんなこと言わないよ。定期で合わない?お金もっとあげるからさ」




「もちろんかまいませんよ?でもお金は今のままで構いませんから」




そのまま男性の車へ誘導され、助手席に乗り込んだ。男性は運転席に乗り込み、シートベルトを付けながら口を開いた。




「どこのホテルがいいとかある?」




青姫は微笑を保った顔で、考えながら話すように、ゆっくりと答える。




「……どこでも。ただ二人でお風呂に入りたいなとは思うので、お風呂がしっかりしているところがいいかな……」




青姫の言葉にうんうんと満足そうに頷き、車を発進させる。男性がこちらを見てくるたびに青姫は優しく微笑む。いつからだったか、どうしてだったか、もう覚えてはいないが、彼女は自らが売女であることに溺れてしまっていた。