鋭い彼等のことだから

「……はい」




「いやいや。だったら自分の分も作るべきでしょう。いや問題はそこでもないんだけど……」




「るり毎日おいしかったって言ってくれるから」




「主夫?ねぇ主夫なの?君は。あなた家で安らげる時間ある?」




「んー……るりと一緒にいる時間がそうかな」




和歌子は深くため息をついた。

 和歌子はるりの母親である。平均的な大学生の母親よりも、だいぶ若い印象を与える。もちろんそれはかなり若い年齢でるりを産んだからこそだが、そのへんの事情はまだここでは綴らないようにする。とはいえ、とある事件をきっかけにるりが家を出て行ったことに、非常に胸を痛ませていたのだった。和歌子はるりが皐月と一緒に暮らしていることをちゃんと知っている。普通ならこんなとき、無理やりにでもつれて帰ろうとするかもしれないが、和歌子はそのような行動はとらなかった。いや、とれなかった。母親だからこそ、娘の気性についてはよく知っているつもりだ。るりは、無理やり連れて行こうとすればするほど、家族に対する気持ちが遠ざかっていく。これはるりだけの話じゃなくて、家出をした子どもは大抵そうなのだ。和歌子は一人の母親として、一人の精神科医としても、様子を見ることにしている。るりが家に帰ろうと一瞬でも思ったときにいつでもるりのことを快く受け入れられる準備をしながら。

 ただやはり心配なのは、るりが実に野良猫のような振る舞いをするところである。自由奔放でかまってもらうのを嫌い、えさをもらえば甘えていく。それとはまた別に、精神科医として考えるべき懸念材料がるりにはあったが、これもまた別の機会に綴ろう。

 皐月は非常によくるりに尽くしてくれる。和歌子が呆れるくらいに。まあそれほどまでにるりのことを愛してくれているわけなのだから、悪いことではない。




「ずっと好きだったから。るりがいてくれるだけで気分が舞い上がっちゃって」




ここまで愛されるるりは幸せ者だし、皐月のように尽くしてくれる男がいるのも羨ましい話である。