鋭い彼等のことだから

女医、仲河和歌子は少し、いや結構抜けているところがある。他の女医と比べると、かなり異色な存在であった。ただし、精神科の医者としての定評は高い。医者の中でも一目置かれるほど博識な人物だ。大学で非常勤をまかされるほどなのだから、非常に頭の切れる人物であることには間違いない。精神科医になる前は、あの漫画で有名な天才孤独外科医顔負けの、かなり凄腕の外科医だったらしい。……らしい、というのは、あくまで彼女の自称にすぎないからこその表現である。


 篠崎はそんな彼女と牛丼を前に、口元をおさえながら、顔を真っ青にして声をひねりだす。




「うう……やっぱり今日はきつねうどんにします」




「あらそぉ?」




軽くお辞儀をして、すたすたと食券売り場へと歩いていった。篠崎の後姿をしばらく見つめた後、和歌子は皐月のななめ前の席に座る。




「やぁねぇ。汁物の方が危ないと思うわ。下手したらお汁に浮いてる揚げ玉とか油揚げが、吸引した脂肪とか摘出した皮膚なんかに見えちゃうから……」




食券機前に立っていた篠崎が固まり、ぞわぞわと鳥肌をたたせている。




「先生……篠崎さんにご飯食べさせる気ないでしょ」




「やだ。きこえちゃったぁ?」




申し訳なさそうにちらりと目をやる。篠崎はまだ固まっていた。和歌子はけろりと開き直った顔で皐月を見る。




「皐月くん、正看になったんだって?おめでとぉ」




箸を取り、牛丼を食べ始める和歌子。




「あはは……篠崎さんのことはもういいんですね。しかも俺もう正看になって半年近くたってますけどね」




「あらぁ?そうだったかしら?皐月くんも、やっぱりオペ室入るの多くなってきたんじゃなぁい?」




「他の科の勤務の看護師に比べたらそれほどでも。俺の場合、出入りは小児科と産婦人科と精神科ですから」




「……いやいや……出入りするとこ多いねぇ」