女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~



 野獣と化しかけた彼を笑顔で脅して晩ご飯へ意識を切り替えさせ、向かい合って食事を始めた。

 本日働いていない私も彼と一緒にビールをあける。

 乾杯、とグラスをあわせて、二人でガツガツ食べた。

「それで、いつで鮮魚は終わりなの?」

 私が箸を止めて聞くと、彼も、ああ、と言って箸を止めた。

「引継ぎがあるから来週からだ。鮮魚にはリカーの池谷が来るらしい。あいつはマーケットも長いから、すぐ慣れるだろうけどな」

 リカーの池谷さん?私は首をひねる。

「・・・どんな人?」

「君くらいの背で、眼鏡かけてる茶髪の男だ」

 うーん、と考えて、やっと判った。ああ!あの人かあ・・・。そしてつい笑ってしまう。

「うん?」

「・・・池谷さん、鮮魚の服似合わなさそう・・・・」

 ってか、雰囲気も。

 リカーの人間は百貨店の中でも一番スマートな制服を支給されている。お酒はビールからワイン、ブランデーやシャンパンもあるので、イメージとして洗練されてなければ格好がつかないからだろう。

 それに比べて、鮮魚は所謂魚屋さん。制服の黒いシャツの上には長いエプロンをつけるし、生物を扱うので長袖を着ていても腕まくりをしている。アルバイトや準社員さんは売り場の移動がないので、やはり声の大きい勇ましい感じの男の子が多い。

 呼び込みや品だしも手を叩いたり大声を出したりで、市場そのものの荒っぽさがあったりするのだ。

 そこに、あの、きっちりと直立不動で立っている、池谷さん・・・。