「謝ることじゃないわよ!当たり前のこと。でも手配があるから、判ったらすぐ教えて頂戴ね。もしかしたらあなたは悪阻の酷い人かもしれないし。そうだったらとてもデパ地下では仕事できないわよ」
ね、と言って福田店長は催事の会場を指差す。
今週の催事は九州物産展で、餃子やラーメンの匂いが売り場にまで流れてきていた。妊婦でなくても体調の悪い日は気持ち悪くなることがある。
うんざりした私の肩を叩いて、店長は明るく言った。
「まあ結果がでるまであまり考え込まないようにね。それで余計生理が遅れるかも。とにかく遅くなるから私はお昼に出るわね」
はい、と頷いて、私はそうだと店長を引き止める。
「・・・桑谷さんには秘密にしてるんです」
店長は頷いた。
「了解です。誰にも言わないわ。ここのゴシップ流布力は凄いものがあるからね」
ええ、去年はそれを大いに利用させて頂きました。
店長がお昼に出て、私はしばらく呆然とカウンターに佇む。
・・・ああ・・・私の毎日が、変わっていく・・・。
そんなこんなで私は一人、鬱状態で6月までを過ごしていた。その私を心配する桑谷さんに「5月病よ」と簡単に答えて、その気になれない私は、夜もしくは朝、たまに昼にある誘惑も3回に2回は逃げた。
お酒を口にしなくなったので、台所にはビールが溜まっている。それを眺めて桑谷さんが振り返った。
「―――――重症だな、まり」
「はい?」
雨で、私は室内に洗濯物を干しながら振り返る。いきなり話を振られて頭が混乱した。
「何が重症?私のこと?」
彼は肩をすくめてビールを指差す。



