女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~



「出勤したら、私のロッカーの中でチューちゃんが死んでたの」

「え?」

 桑谷さんが目を見開いた。

「チューちゃん?」

「ネズミよ。知らないの?」

 私はイライラと返す。桑谷さんはその私に驚いたようだった。腕を放して身を引く。

「・・・ロッカーの中に?」

「そう。それで一度売り場に行ってから靴を買いに行かなきゃならなくて。無駄な出費だし、自分のロッカーで生き物が死んでいるのはやっぱり気持ち悪い」

 私は床に置いていた資材を持って、彼を振り返った。

「えらくイライラしてるんだな」

 彼の呟きがまたムカついた。

「生理前なのよ!」

 つい叫んでしまってから、そりゃ来ない限り、永遠に生理前なんだわ、と考えてまたため息をつく。

 桑谷さんは無表情で私を見ている。何やら機嫌の悪い妻を持て余して、観察しているようだった。こういう時、彼はいつも無駄口を叩かずに黙って私をじっと見詰める。

 私は小さく呼吸をして、ドアを開けながら言う。

「・・・ごめんなさい。とにかく、私は戻るわ。鍵、ありがとう」

「ああ」

 そして資材を抱えて売り場に戻った。

 行ったときよりも仏頂面で戻ってきた私に福田店長が驚いて、どうしたの、と聞くから話すと、ああ、と苦笑していた。

「生理前のイライラは、男性には永遠に理解出来ないでしょうね。桑谷さんも間の悪いというか・・・」

 言いながらまだ冴えない私の顔を見て、福田店長は首を傾げた。

「どうしたのよ、一体」