「出勤したら、私のロッカーの中でチューちゃんが死んでたの」
「え?」
桑谷さんが目を見開いた。
「チューちゃん?」
「ネズミよ。知らないの?」
私はイライラと返す。桑谷さんはその私に驚いたようだった。腕を放して身を引く。
「・・・ロッカーの中に?」
「そう。それで一度売り場に行ってから靴を買いに行かなきゃならなくて。無駄な出費だし、自分のロッカーで生き物が死んでいるのはやっぱり気持ち悪い」
私は床に置いていた資材を持って、彼を振り返った。
「えらくイライラしてるんだな」
彼の呟きがまたムカついた。
「生理前なのよ!」
つい叫んでしまってから、そりゃ来ない限り、永遠に生理前なんだわ、と考えてまたため息をつく。
桑谷さんは無表情で私を見ている。何やら機嫌の悪い妻を持て余して、観察しているようだった。こういう時、彼はいつも無駄口を叩かずに黙って私をじっと見詰める。
私は小さく呼吸をして、ドアを開けながら言う。
「・・・ごめんなさい。とにかく、私は戻るわ。鍵、ありがとう」
「ああ」
そして資材を抱えて売り場に戻った。
行ったときよりも仏頂面で戻ってきた私に福田店長が驚いて、どうしたの、と聞くから話すと、ああ、と苦笑していた。
「生理前のイライラは、男性には永遠に理解出来ないでしょうね。桑谷さんも間の悪いというか・・・」
言いながらまだ冴えない私の顔を見て、福田店長は首を傾げた。
「どうしたのよ、一体」



